2004.10.30

『こうのとり、たちずさんで』(テオ・アンゲロプロス)

こうのとり、たちずさんで

今回は、映像美に酔いしれる1本です。
名コンビヨルゴス・アルヴァニティス撮影による、テオ・アンゲロプロス監督渾身の一作。

ハリウッドのエンターテイメント作品とは対極にある彼の作品は、誰にでもお勧めできるものでもなく、難解で眠いとよく言われます。

自分がいつも書いている“何回リピート鑑賞に耐え得るか”という基準からしても、何回も観ようとは思いません。

今回の作品も、難民と国境を扱った重い話です。
マルチェロ・マストロヤンニにジャンヌ・モローと、出演者は豪華ですが。

ただ、アンゲロプロス作品の魅力はなんといっても、あの淀川長治氏をして、アンゲロプロスのことを「映画の感覚、映像美術の神」とまで言わしめた、他の追随を許さない圧倒的な映像の力。
今回も全編、詩的で崇高でため息の出るような映像の連続ですが、特筆すべきは3箇所。

まずは、有名な川を挟んでの結婚式。
川の一方の岸には新婦とその親族や仲間、そして対岸には新郎とその親族や仲間。新婦側の岸には神父さんもいます。
しかし、川の両岸は同じ国ではないのです。

元々は新婦一家も新郎側の国の人間ですが、難民としてこちら側に渡ってきています。
幼い頃は、共に無邪気に走り回ったことでしょう、それが、結婚したのに、手を触れ合うことすらできない二人。

こうのとり、たちずさんで 結婚式

まったく台詞なしで見せるこの10分はあるであろう川を隔てての結婚式のシーンは、言葉を失うほどの傑作。

二つめは、酒場で隣のテーブルに座った男女を延々と捉えるシーン。
これは観てのお楽しみということで。

最後は、これまた言葉を失ったラストシーン。
労働者たちが雨の中、黄色いレインコートをまとい、電柱にぶら下がり電線を張っています。
ただそれだけのシーンです。

それなのに、これは言葉で書いたところで実際に観ていただかないと伝わらないと思いますが、電柱にぶら下がる労働者たちを捉えたこの何でもないロングショットが、こうも迫ってくるものかと、頭や心に響くというより、こんな言葉ないでしょうが“肌に響く”、ほんとに鳥肌が立ちました。
このワンショットを観るためだけでも、この映画を観る価値はあると思います。

こうのとり、たちずさんで 電柱

タイトルの『こうのとり、たちずさんで』は、橋の上に書かれた国境線の上に片足で立つ姿から。
冒頭とラスト近くに出て来ますが、国境線の上に片足で立ち、持ち上げた足を線の向こう側に下ろそうとするシーンがあります。
しかし、下ろした瞬間、向こう側で銃を構えている警備兵に一撃のもとに殺されてしまうでしょう。

こうのとり、たちずさんで 国境線

人の手で引かれたたった1本の線、しかし、その線をまたぐということがどんなことなのか。
“国境”がいかに愚かなものかということを、目に見える形で訴えるこちらも素晴らしいシーン。

最初の方に書いたように、どなたにもお勧めとはいきませんが、他の追随を許さない映像の凄さだけは保証します。



[原題]To meteoro vima tou pelargou
1991/ギリシャ・フランス・スイス・イタリア/142分
[監督]テオ・アンゲロプロス
[撮影]ヨルゴス・アルヴァニティス/アンドレアス・シナノス
[出演]マルチェロ・マストロヤンニ/ジャンヌ・モロー/グレゴリー・カー

→他の映画の感想も読む

 

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*Comment

■>リーチェン様

TB&コメントありがとうございます。
早速ご覧になられましたか!観ていただいて凄く嬉しいです。
ただ、アンゲロプロスを薦めるのって、結構勇気いるんですよね。
「寝た」という答えが返ってくることもありますから(笑)

おっしゃるように、確かに日本人には“国境”というものはいまいちピンときませんが、そういう難しいことを抜きにしても、やっぱり彼の映画の映像の力は凄いと思います。

>人ありきではなく、あくまでも映し出したいシーンの中に人がいて

というのは言い得て妙ですね。他の彼の映画も思い浮かべてみましたが、その通りだと思います。

そして、「映画らしい映画」、まさにその一言に尽きますね。
だからこそ映画館で観たいもの。大阪のこの企画、改めて羨ましいです(泣)
micchii |  2006.01.23(月) 13:24 |  URL |  【コメント編集】

■計算しつくされた映像美!

micchiiさん、こんにちは!

>最初の方に書いたように、どなたにもお勧めとはいきませんが

見込んでいただいてありがとうございます(笑)
細部にまで計算された映像美、セリフが極小なのも、見るものが映像から読み取れるようにとの配慮なのか・・・(爆)

島国民族の日本人には、線をまたげば異国になるという感覚はピンときませんが、この人間が作った”線”によって様々な悲劇が生まれているんですよね。国境の持つ重みや意味を考えさせられました。

リーチェン |  2006.01.21(土) 10:15 |  URL |  【コメント編集】

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「こうのとり、たちずさんで」(91ギリシャ=フランス=スイス=イタリア)

難民、国境というシビアなテーマを、その計算しつくされた映像で訴えかけるテオ・アンゲロプロス作品。いろんな意味でとても映画らしい作品です。
2006/01/21(土) 10:10:02 | Happy Together

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