2007.10.01

『無味神探』(ジョニー・トー)

無味神探

映画祭に4本も登場で沸くジョニー・トー界隈ですが、劇場公開or日本版DVDということでは、これも忘れてもらっては困ります。

というわけで、ジョニー・トー第33弾、『無味神探』です。

※ちゃんと字幕を追っていないため意訳が入っておりますので、台詞はだいたいの感じ。

トーさんが、それまでの雇われ監督的作品から、作家主義的作品に踏み出した記念碑的作品と言われているこの作品。
ラウ・チンワンとの初コンビ作品でもあります。

冒頭から柔な気持ちは吹き飛びます。
麻薬の取引現場にいる囮捜査の女性刑事、正体がばれてしまい、躊躇なく射殺。
周りで張り込んでいたラウちん率いる刑事たちは急いで現場に突入しますが、犯人たちは逃走。

主犯と一対一の撃ち合いになったラウちん、物が転がってくる危険極まりない屋根の上の死闘の末、惜しくも犯人を逃してしまいます。
犯人の前でこれ見よがしに麻薬を投げ捨てたラウちんに、燃え上がる犯人の復讐の炎。

映画の面白さは悪役のキャラに大きく左右されますが、この犯人が素晴らしい。
『デッドポイント~黒社会捜査線~』ばりの容赦のなさに、憎たらしさも加わり、いい感じのむかつき具合(笑)

では、善人の刑事たちが凶悪犯に立ち向かう『デッドポイント~黒社会捜査線~』のような話かと思えば、それにとどまらないのがこの作品。

『デッドポイント~黒社会捜査線~』『ブレイキング・ニュース』のように、いかにも刑事アクションのように始まりますが、これは、一人の人間が人間らしさを取り戻していくまでの物語、そして、夫婦の絆の物語。

わかりやすく一言で言うなら、『再見阿郎』夫婦バージョン。

ラウちんは刑事としては優秀ですが、奥さん(カルメン・リー)のいる家には帰りさえせず、部下にも冷たくあたり、バーに出掛ければ誰構わずことに及んでしまうような、人間的にはひどい人間です。

そしてある日、奥さんにこう告げられてしまいます。
「赤ちゃんができたの。でも、父親はあなたじゃないわ」

そんなラウちんにとうの昔に耐えられなくなっていた奥さんは、職場の同僚と付き合っていたのです。

それが、先ほどの犯人の、女性(こちらもトーさん作品初登場のルビー・ウォン)を利用した罠にかかり頭を撃たれたことで、瀕死の重傷を負ってしまったラウちん。
あれで死なないのかよというツッコミはさておき、奇跡的に一命はとりとめたものの、味覚と臭覚を失い、他にも後遺症が残ってしまったラウちん。

そんなラウちんを、無言で看病する奥さん。

無味神探 ラウ・チンワン カルメン・リー

「こんなことやめてくれ、俺のこと哀れんでいるだけだろ」

それでも尽くす奥さんですが、もちろん急に全てが上手くいくわけもなく、お腹の中には違う男性の赤ちゃんがいます。
二人の間で揺れる奥さん。

ある日、奥さんを尾けていき、奥さんと不倫相手の密会を目撃してしまったラウちん。
実は奥さんはラウちんとやり直す決意を固め、そのことを告げに行っていたわけですが。

身重の体で急いでラウちんに会いに家に帰る奥さん。
しかしラウちんの姿はありません。

このままじゃだめだ、変わらなければ。
自らもいまだ不自由な体でありながら、奥さんのために食材の買い出しに行ったラウちん。

慌ててラウちんを探しに家を飛び出した奥さんの目に、両手に食材を抱えたラウちんが遠くから現れます。

コテコテのラブストーリーではない映画の、男女のちょっとしたシーンに抜群の冴えを見せるトーさん、この二人の街角での出会いの呼吸が素晴らしい。

しかし、ラウちんの作った料理に手をつけない奥さん。

「本当は怒ってるのに、こんなことやめてよ。
あなたはあんなことがあったから戻ってきてくれたけど、もし今まで通り健康なら戻ってなんかこなかったでしょ?」

ごもっともな奥さんですが、せっかくの料理を食べてもらえないラウちん、見事なちゃぶ台返し!

鼻から変な液体が出てきたり、再手術が必要なくらい後遺症が悪化しているラウちんですが、例の犯人に奥さんがさらわれたことから、走るのもやっとの体で、犯人との最後の決戦に向かいます。

この先は観てのお楽しみとしておきますが、派手なアクションシーンもあるものの、人間ドラマの要素の方が強く、『再見阿郎』路線の、地味ながらもじわじわとくる映画。

何が凄いって、これだけの内容を盛り込みながら、79分ですよ79分。
『ザ・ミッション/非情の掟』が81分であることよりも凄い。

これ以前にも『裸足のクンフー・ファイター』のような傑作がありますが、やはりここから始まった感はありますね。
ジョニー・トー×ラウ・チンワン黄金コンビ、ここに幕開け。

B00392OQEW無味神探 (DVD) (デジタルリマスター) (香港版)


[原題]無味神探
1995/香港/79分
[監督]ジョニー・トー
[脚本]ヤウ・ナイホイ
[出演]ラウ・チンワン/カルメン・リー/ルビー・ウォン/ラム・シュー

→予告編 →他の映画の感想も読む

【関連記事】
『再見阿郎』(ジョニー・トー)

 

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*Comment

■>妄想大好き人間さん

こんばんは、またまた返事が遅くなり大変申し訳ありません。

実在した刑事がモデルという話は知りませんでした、貴重な情報ありがとうございます!

結構凄惨な描写もある映画ですが、映画だからと盛ったわけではなく、実際の銃撃戦も凄まじいものだったとは…。

映画ならそれで済みますが、現実の警官たちはいつもそのような事態に出遭う“現実”と隣り合わせなわけで、ほんとに頭が下がりますね。
ご冥福をお祈りします。合掌。
micchii |  2016.07.24(日) 20:46 |  URL |  【コメント編集】

■香港ポリスに敬意を

お邪魔します。

この映画未見なんですが、これはどうやら実在した刑事の話をモデルにしているみたいなんですね。
詳細はこちら↓
https://zh.wikipedia.org/wiki/%E9%99%B3%E6%80%9D%E7%A5%BA
瀕死の重傷を負うくだりも、九龍の大角嘴(タイコクツイ)で起きた銃撃事件がモデルのようです。実際の銃撃戦もAK47が火を噴いたり、手榴弾が5発爆発したりと凄惨だったようです。

ちなみに、モデルとなった人物は昨年に亡くなられたそうです。
おそばせながら、ご冥福をお祈りします。合掌。
妄想大好き人間 |  2016.07.16(土) 11:25 |  URL |  【コメント編集】

■>エヌさん

コメントありがとうございます。
おおっ、リアルタイムでご覧になってるんですね!
自分は完全に後追いのファンなんですが、『鎗火』『暗戦』あたりより前にも、素晴らしい映画たくさんありますよね。
『怒火街頭』は凄く評判いいですが未見なので、観てみようと思います、ありがとうございます!
micchii |  2013.10.12(土) 13:31 |  URL |  【コメント編集】

■素晴らしい!

ああ、素晴らしい。僕はリアルタイムで観ました。
間違いなく傑作です。
父さんではないですが、この時期の怒火街頭といい劉青雲の
刑事ものは素晴らしすぎです。

エヌ |  2013.10.12(土) 01:08 |  URL |  【コメント編集】

■>森と海さん

リアルタイムで順に観ていくと、おっ!ぐらいかもしれませんが、後の傑作群を観ている人間には、まぎれもなく原点ですよね。
『再見阿郎』共々ぜひDVD出して欲しいです。

>じっくり描きながら余計なこと言わない愛情表現

低レベルな“泣ける恋愛映画”を連発している邦画関係者に、3万回は復唱してほしいです。
micchii |  2007.10.04(木) 13:05 |  URL |  【コメント編集】

■原点

と言われる意味が判りますよね。
ペットボトルをサイレンサー代わりの激しいガンアクション、じっくり描きながら余計なこと言わない愛情表現、ガスの匂いがわからないというベタなギャグ。すべてがこの後の作品に手を変えて出てくるところからして、やはり原点です。
森と海 |  2007.10.01(月) 21:34 |  URL |  【コメント編集】

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