2016.12.31

『スモーク』(ウェイン・ワン)

スモーク

今回は、これまで何度となく見た大好きな映画『スモーク』です。

タバコ屋の店長オーギーのなじみの客で作家のポールは、家に帰る途中、危うく車に轢かれそうにそうになるところを黒人少年ラシードに助けられる…。

『秘密と嘘』『八月のクリスマス』の時に、「たいした事件も、大きな出来事もなく、人間関係と人の感情だけで見せる、これぞ映画」という言葉を使いましたが、この映画もそういう映画です。

何度でも観たくなる映画というのはこういう映画で、今書いたのと正反対の映画というのは、1回観てその時は感動するかもしれませんが、それ以上ではないわけで、結末もわかっているのにまた観たいとは思いません。

でも、こういう映画は、1シーン1シーンの、ちょっとした言葉や、表情や、仕草、そんな一つ一つがほんとに愛すべきもので、何度観ようがまた観たくなります。

上記2本との共通点としては、今回も写真が出てきます。
そして、写真の持つインパクトという点ではこの映画がずば抜けています。

ハーヴェイ・カイテル扮する写真屋の男は、14年間1日も欠かさず、同じ場所で同じ時刻に写真を撮り続けているんです。
いろんな場所に行って大量の写真を撮っているというのではなく、自分が住んでいる街角で、毎日朝8時に写真を撮るんです、しかも14年間毎日。

何千枚とある同じ場所で同じ時刻に撮影された写真。
しかし、彼が言うように、同じ写真は1枚としてないんです。晴れている日、曇っている日、暑い夏の日、凍える冬の朝。

スモーク ウィリアム・ハート

新しい顔が常連になり、古い顔が消えていく、この写真をウイリアム・ハート扮する作家と一緒に見るシーンがありますが、その写真を見ているだけで涙がこぼれ落ちてきます。
そして、そのアルバムに作家はある人を見つけます。これは見てのお楽しみということで。

二人でアルバムを見ながら語った次の日の朝も、またいつものようにオーギーはシャッターを切ります。

スモーク ハーヴェイ・カイテル

パンフレットに書いてある原作者ポール・オースターの話(というより新潮文庫の『スモーク&ブルー・イン・ザ・フェイス』よりの抜粋)によると、オーギーという人は実際にいて、何千枚と毎日写真を撮っているというのもほんとの話のようです。

『秘密と嘘』との共通点のもうひとつが、「嘘」です。この映画も多くの嘘に溢れています。
一人一人の登場人物の描写がほんとに深くて、それぞれが背負っているものの重みが、彼らにいろんな嘘をつかせます。

そして、この映画には他にも素敵なエピソードがたくさん出てきます。

タバコの煙の重さをどうやって量るかという話。
雪山で遭難した男の話(書いてしまうと楽しみが消えるので伏せておきます)。
自殺をしようとした作家(主人公の作家とは別)が、死ぬ前に最後に一服吸おうとした時、タバコを巻く紙がなくて、10年かかって書いた原稿の紙を破ってタバコを巻いたという、「死ぬ時に大事なのは本か一服のタバコか」という話。

タバコ屋、作家、少年以外にも魅力的な人物が多数登場しますが、その一人がさびれた自動車工場で働く、左手が義手の男。この男についての話が一番泣けます。自分は文字通り号泣でした…。

スモーク フォレスト・ウィテカー

さらに、この映画で素晴らしかったのは、映画はもちろんのこと、先ほども出てきましたパンフレット。
一人一人の登場人物についての紹介が結構深くて、その中にこんな言葉がありました。あまりにも強烈だったので引用させていただきます。
台詞ではなくて、ある人物についての紹介のコメントとして載っていました。

“恨みよりも、失った時よりも、触れた父が真実だった”

ほんとなら自分の言葉でこれに勝る表現をしたいんですが、太刀打ちできそうにないので、パンフレットから引用させていただきました。
映画をご覧になったら、この言葉の重みがわかっていただけると思います。

とどめは、ラストのエピソードのバックに流れる、トム・ウェイツの「Innocent When You Dream」。

最後に、これまたパンフレットに載っていたポール・オースターの言葉から。

“信じる者が一人でもいれば、その物語は真実になる”

(2004.9.1)

2016.12.31 映画館で鑑賞
何十回と観てるけど、映画館では公開時以来の21年ぶり。

オールタイムベスト100どころかベスト5でも迷わず入る映画だけど、映画の中に流れる時間のこの豊かさはちょっと別格。

そして、相変わらずこの映画を観た後だけは煙草を吸いたくなって困る。

一分一秒が愛おしく、全てが最高。



[原題]Smoke
1995/日本・アメリカ/113分
[監督]ウェイン・ワン
[原作・脚本]ポール・オースター
[出演]ハーヴェイ・カイテル/ウィリアム・ハート/ストッカード・チャニング/ハロルド・ペリノー・Jr/フォレスト・ウィテカー/アシュレイ・ジャッド

→予告編 →「Innocent When You Dream」 →他の映画の感想も読む

【関連記事】
『秘密と嘘』(マイク・リー)
『八月のクリスマス』(ホ・ジノ)
「レンタルビデオ屋始めました」バトン vol.2

 

TB(9) CM(10) EDIT

*Comment

■>zukkaさん

初めまして、コメントありがとうございます。

>映画好きの方と話すときは決まって「スモーク」見た?
と話し始めます。

これ、すごくわかります!
相手が観ていて、しかも大好きだなんて言ったら、その瞬間に意気投合(笑)
好きな映画の話をすると、『ニュー・シネマ・パラダイス』や『ショーシャンクの空に』を挙げる人が多いですが(2本とも自分も大好きです)、まあそれは珍しくないですからね。
その点、『スモーク』を挙げる人はなかなかいないですから。
今後とも、宜しくお願い致します。
micchii |  2008.11.05(水) 13:03 |  URL |  【コメント編集】

■お気に入り作品のひとつ

はじめまして。こんにちは。
映画のブログを眺めていて、こちらにたどり着きました。
「スモーク」は大好きな作品です。
映画好きの方と話すときは決まって「スモーク」見た?
と話し始めます。
見てないと言うと、眠くないときにじっくり見てね!
とDVDを押し付けます・・・(笑)
これからいろんな記事を見せてくださいね。
zukka |  2008.11.03(月) 21:55 |  URL |  【コメント編集】

■>グラ様

コメントありがとうございます。
所々に挿入される「お話」は、ほんとにどれも素敵でしたよね。
感想に書かれていましたように、これからも季節にはぴったりですね。
「ジョイ・ラック・クラブ」は自分も未見なので観てみたいです。
micchii |  2006.11.25(土) 13:23 |  URL |  【コメント編集】

micchiiさんオススメの「スモーク」を観ました。
セリフではなく、合間合間に語られる「お話」が
登場人物の心情を表してる。
いいですね~。
この監督の「ジョイラッククラブ」も観たくなりました。
グラ |  2006.11.24(金) 16:23 |  URL |  【コメント編集】

■>David Gilmour様

こちらこそコメントありがとうございます。
写真を写すシーン、実際のモデルがいるというのが凄いですよね。作り話としても十分素晴らしいのに。

「ラスト・ショー」や「ダック・スープ」もそうですが、新作映画を扱った素晴らしいブログはたくさんあるので、自分のところではなるべく、他ではあまり見かけないけどぜひ多くの人に観て欲しい、そういう映画をUPしていけたらなぁと思っています。

こちらこそ、今後ともよろしくお願い致します。
micchii |  2006.08.17(木) 14:01 |  URL |  【コメント編集】

■こんばんは、はじめまして

返信トラバありがとうございました。

この映画で、ハーヴィ・カイテルが毎日、ブルックリンの街角交差点の前で、自営の葉巻屋をカメラで写すシーンってほんとによかったですよね。

ところで、貴ブログで「ラスト・ショー」や「ダック・スープ」などを取り上げられているのを見て感銘を受けました。

それでは、今後ともよろしくお願い致します。
David Gilmour |  2006.08.15(火) 22:13 |  URL |  【コメント編集】

■>にじばぶ様

とうとうご覧になりましたか!
「スルメ映画」、凄くわかります。
もう数え切れないくらい観てますが、観る度に、噛めば噛むほど味が出てくるんですよね~。

呼び方は、ミッチーさんでも何でもご自由に呼んでくださいませ。

>最初はミッチーさんとかなり映画の趣味がずれているのでは?と思ってた時期もありましたが、「超」好きな作品のレベルになってくると意外と一致することに最近気付きました。(笑)

ははは(笑)
自分なら迷わず10点を付ける『楽園の瑕』や『アンダーグラウンド』に1点が付いていることを思うと、完全には一致してはいないでしょうが、『恋する惑星』や『ニュー・シネマ・パラダイス』だけでなく『スモーク』まで気に入っていただいたということは、感じ方は近いものがあるでしょうね。
残りの2本と違って『スモーク』はそう有名でもないですし。

>私の「超」オススメ作品もそろそろミッチーさんに観てもら・・・・・

「もら」で止めていただいてかたじけないです(笑)
最近は、週に1本観れればましというような状況なので、ただでさえ未見の手持ちDVDが50枚近くあるのに、お薦め映画までは手が回らないのが現状です・・・。
ただ、お薦め映画の方も、前回のカテゴリーまでですでに150本はあると思いますので、さすがに手をつけないとなぁと思っています。
ということで、今ここに、TSUTAYAに『地球で最後のふたり』を借りに行くことを宣言します!
もし感想をUPするほど気に入ったら(つまらなかった映画はUPしたことがありません)、次回UPしたいと思います。
もし次回違う映画がUPされた場合は、・・・・・。
ただ、その場合も、にじばぶさんのブログで一言だけでも感想を述べたいと思います。
期待して待っていて下さい(笑)
micchii |  2006.01.18(水) 14:16 |  URL |  【コメント編集】

観ました観ました!
やっと観ました!
一風変わった雰囲気のある映画で、観終えた後、じわじわと味わいが出てくる感じの作品でした。
言ってみれば、「スルメ映画」でしょうか。(なんじゃそれ^^;)
ミッチーさん(こうお呼びしてもよろしんでしょうか?!)が大好きである所以が分かったような気がしました。
『恋する惑星』『ニュー・シネマ・パラダイス』など、ミッチーさんの超オススメ作品は、私にとっても超お気に入り作品となりました。
『スモーク』もこの2つほどストライクにはきませんでしたが、楽しむことができました。
最初はミッチーさんとかなり映画の趣味がずれているのでは?と思ってた時期もありましたが、「超」好きな作品のレベルになってくると意外と一致することに最近気付きました。(笑)
なので、私の「超」オススメ作品もそろそろミッチーさんに観てもら・・・・・
にじばぶ |  2006.01.16(月) 16:32 |  URL |  【コメント編集】

>多感な奴@CINEMA IN/OUT様
コメントありがとうございます!
ラストはほんとに素敵ですよね^^
何度観たかわからないくらい観た大好きな映画です。
micchii(管理人) |  2005.03.05(土) 13:15 |  URL |  【コメント編集】

■TBさせて頂きました

「映画生活」から流れてまいりました。この映画、とくにラストは素晴らしいですよね。
多感な奴@CINEMA IN/OUT |  2005.03.02(水) 22:29 |  URL |  【コメント編集】

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「スモーク」

「行く川の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」(鴨長明「方丈記」より)―。米作家ポール・オースターの短編小説「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」を「ジョイ・ラック・ク
2006/08/14(月) 16:33:06 | シネマ・ワンダーランド

スモーク

ちょっと落ち着きたい気分だったので、この映画を観ました。現代アメリカ純文学の作家ポール・オースターによる映画のための書き下ろし脚本の映画化。'95年作ですね。元々はニューヨークタイムズに掲載の「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」を映画監督ウ
2005/05/23(月) 15:59:22 | かずろぐ

スモーク

TBありがとうございました!こちらからもTBさせていただきますね^^
2005/03/06(日) 20:23:20 | Movie☆Diary

スモーク

ウェイン・ワン監督作品(1995年・米日)脚本は作家ポール・オースターの短編『オーギー・レーンのクリスマス・ストーリー』を元にしてオースター自らが執筆したもの。キャストはハーヴェイ・カイテル、ウィリアム・ハート、ハロルド・ペリノー・ジュニア、フォレスト・ウィ
2005/03/02(水) 22:27:59 | CINEMA IN/OUT

『ブルーインザフェイス(blue in the face)』;ウェイン・ワン ★★★☆☆

お邪魔致します。関連の記事でしたのでトラックバックさせていただきました。
2005/01/31(月) 10:37:01 | 独身者の機械;n.Z.mAT☆0708(仮)

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