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『ヴェラ・ドレイク』(2004/マイク・リー) 

監督名だけで観に行く一人マイク・リー。
当ブログでは『秘密と嘘』『人生は、時々晴れ』に続いて第3弾、最新作『ヴェラ・ドレイク』観て来ました。

いやぁ、さすがですねマイク・リー。心震えるとはこのこと。
それでいて、描いているのはいつも通り家族の日常。

弟の自動車修理工場で働く夫スタン、裕福な家の家政婦をしたり、近所の人や自らの母親の面倒を見ている、いつも鼻歌まじりの妻ヴェラ、仕立て屋で働き夜学にも通いナンパにも精を出す息子シド、仕事と家の往復というつまらない毎日を送っている無口な娘エセル。豊かではないが笑顔のあるドレイク一家。

4人揃って夕食を食べ、温かい紅茶を飲み、くだらない冗談に笑いもする。

ヴェラが抱える秘密という話もあるんですが、そんなことがなかったとしても、家族の何気ないやりとりだけでも2時間魅せるでしょう。

ヴェラ・ドレイク50


そして、『秘密と嘘』のブレンダ・ブレッシン、『人生は、時々晴れ』のティモシー・スポールを観てもわかるように、並の役者では務まらないのがマイク・リー映画の主役。
この映画のイメルダ・スタウントンも、凄いの一言。

イギリス演劇界最高の名誉であるオリヴィエ賞3度受賞は、マギー・スミスやジュディ・デンチに肩を並べる偉業。
この映画でも、ヴェネチア国際映画祭をはじめ10以上の主演女優賞を総なめにしながら、アカデミー賞では受賞ならず。
ヒラリー・スワンクが「イメルダ・スタウントンに申し訳ない」と語ったというのは、お世辞でも何でもないでしょう。

アル中や障害のある役や肉体を鍛えたり、そういうことをするだけで評価されちゃいますが、“普通”であることがいかに凄いか。

「左眉一つで演技できなければダメ」と言ったのはカウリスマキですが、このイメルダ・スタウントンにはただただ脱帽。

声にならない声で場を持たせ、27年間一度も外したことがない結婚指輪を泣く泣く外した時、思わずはめられていた指を握り締める仕草など、形容する言葉もありません。

他の役者同士の掛け合いも最高峰で、娘の婚約者が父親に結婚の許しを請う時の緊迫感。
緊張の糸が切れた瞬間爆発する喜び、こういう緩急は相変わらず絶品。

さらに、例によってマイク・リー独特の演出。
俳優たちは自分が演じる役以外のことは事前に何も知らず、それぞれが数ヶ月かけて役自身になりきり、役自身になりきった状況で初めて対面。
役そのものになった面々が即興でぶつかり合う、わざとらしさの入り込む余地のない状況。
相変わらずマイク・リーのリアリティは一歩抜けていますね。(詳しくは『人生は、時々晴れ』の感想の中で触れています)

この映画でも、一番のポイントとなる予告編などでも流れるスタウントンの顔のアップのシーン。
スタウントン以外の役者はヴェラが行っていたことを知らず、スタウントンも警察がやってくるとは知らず、警官役の俳優がいることすら知らなかったわけで、それだからこそできるあの表情でしょう。

一番のお気に入りはこのシーン。

人生で最悪のクリスマスを迎えた家族。一家4人、弟夫婦、息子の婚約者、7人が勢ぞろいしたクリスマス。
誰もが口を閉ざし、重い空気が流れています。

チョコレートをと切り出したのは夫。
ヴェラがチョコレートの入った箱を回し始めると、あからさまに拒否する弟の妻、一つ取り回すエセル、取らずに回す婚約者、シドも拒否すると、箱を取り戻しチョコレートを一つ取りつつ婚約者は言います。
「人生で最高のクリスマスをありがとう」

空襲で母親を亡くし、恋人もおらず、ずっと一人ぼっちでクリスマスを過ごしてきた彼にとっては、愛する人が隣にいて、その家族が周りを囲む、たとえ皆の顔に笑みがない状況でも、一人ぼっちで過ごしてきたクリスマスよりはどんなに幸せか。
この場面は涙でスクリーンが見えませんでした、滂沱の涙。

もうあまりにも素晴らしくて、拙い言葉でこの素晴らしさを汚したくありません。
ラストカットも完璧。これ以上の終わり方はないでしょう。

毎回絶対に期待を裏切らないマイク・リー。
ただもう恐れ入りました。

夫婦の、親子の、そして家族の、深い絆の物語。

ヴェラ・ドレイクヴェラ・ドレイク

by G-Tools

Vera Drake
2004/イギリス・フランス・ニュージーランド/125分
【監督】マイク・リー
【出演】イメルダ・スタウントン/フィル・デイヴィス/ピーター・ワイト

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TB&コメントありがとうございます。
婚約者の一言はほんとによかったです。あの状況でなかなか言えるものではないと思いますが、彼の今までを思えば説得力もありますし、言うタイミングも見事でしたね。

ラストは、違う見方もできるでしょうが、再生と思いたいですね。
息子は多少時間がかかるかもしれませんが、残りの3人はヴェラのことを信じていますし、道は前に続いていると思います。
[ 2007/07/26 15:18 ] [ 編集 ]
あの婚約者の一言はよかったですね。
無言のままチョコレートがまわっていくとき、誰かなにか言ってよ!と思っていたので、効きました。
ラストの家族のシーンは、これからこの家族はどのようになるのかちょっと判断できなかったのですが。再生のドラマですよね?
[ 2007/07/26 14:39 ] [ 編集 ]
ですね、時間的にも同じくらいだったでしょうね。
『遠い空の向こうに』のジェイクじゃありませんが、これぞ天の声かもしれませんね(どんな声だ?)
[ 2006/04/14 13:26 ] [ 編集 ]
先ほど、こちらに伺った時にレスを読んでいて、「遠い空の向こうに」のことが書いてあって、今日、レビューをアップしたばかりじゃん!って(笑)
もしかして、うちのブログを読んだからなのかなと思ったら、そうじゃなかったのですね。(うちのブログのコメント読みました)
ここでコメントを残そうとしたらお昼休みになってしまったので、たぶん、びっくりしたのもだいたい同じくらいの時間だったかと思います(笑)凄い偶然に驚きです。
[ 2006/04/13 13:30 ] [ 編集 ]
「人生で最高のクリスマスをありがとう」、久々にこんなに泣きました。こんなに泣いたのは、『遠い空の向こうに』以来ですかね〜。

ラストは、“何も主張していない”ところが凄く良かったです。

マイク・リー監督の演出も凄いですが、それに応えられる役者がほんとに凄いと思います。
UPしている『秘密と嘘』『人生は、時々晴れ』はどちらもお薦めですが、特に『秘密と嘘』は、カンヌ映画祭パルムドールの名に恥じない傑作だと思います。
[ 2006/04/13 11:52 ] [ 編集 ]
>「人生で最高のクリスマスをありがとう」
これ良かったですよね。私もグッと来ました。
ラストの刑務所の中と彼女を待つ家族が映り、フェイドアウトしていく終わり方もいいです。

それぞれの役者が数カ月かけて役になりきるんですか!凄いですね。
マイク・リー監督の他の映画も観てみたくなりました。
[ 2006/04/12 23:42 ] [ 編集 ]
コメントありがとうございます。
ついにご覧になられましたか!

>戦後数年しか経っていないという時代、それぞれが苦しいながらも、喜びを見つけて一生懸命生きていた時代の出来事。

何かいかにもなことが描かれるわけではありませんが、ちょっとしたことで、見事にその時代に空気を出していましたよね。

>それぞれの立場での思いに共感するところも大いにありました。

ヴェラはもちろんのこと、旦那さんも、息子も、娘の婚約者も、それぞれの思いにリアリティがあって、どれもちゃんと伝わってきましたよね。

>たくさんの問題を与えられたような映画でしたね。

答えを突きつけるような作り方をしていないので、これから先は、観た人それぞれが、この映画をどう消化していくかですよね。
[ 2006/03/03 14:17 ] [ 編集 ]
わざわざこちらにもお返事ありがとうございます。
これまでもブログ読んでいただいていたとのこと、凄く嬉しいです。
観ている映画の数が一桁以上は違うので、いつも、次はどんな映画がUPされるんだろうと、楽しみに読ませていただいています。
今後とも宜しくお願い致します。
[ 2006/03/03 13:45 ] [ 編集 ]
micchiiさん、おはようございます。
ついに見てきました。

戦後数年しか経っていないという時代、それぞれが苦しいながらも、喜びを見つけて一生懸命生きていた時代の出来事。

その中のヴェラの存在というのは、家族にとって光り輝いていたのでしょうね。
それぞれの立場での思いに共感するところも大いにありました。

たくさんの問題を与えられたような映画でしたね。
[ 2006/03/03 08:48 ] [ 編集 ]
コメントありがとうございました。
私も、密かにこのブログ楽しませていただいてました。
守備範囲が広く感想も温かくて素敵ですね。
また遊びに来させていただきますね。
[ 2006/03/01 23:15 ] [ 編集 ]
>るるる@fab様
コメントありがとうございます。

>冒頭からずっと些細な場面で目頭が熱くなりました。

これがマイク・リー作品の凄いところですよね。たとえヴェラの秘密という話がなかったとしても、それでも2時間魅せきる力が彼の作品にはありますよね。
そして、それに見事に応えている役者たちはほんとに凄いと思います。
[ 2005/10/21 12:32 ] [ 編集 ]
本当に役者の演技が素晴らしく、冒頭からずっと些細な場面で目頭が熱くなりました。それほどにささやかな生活シーンで(非常にリアルな)暖かさを感じられたのだと思います。
[ 2005/10/20 22:39 ] [ 編集 ]
>マダムS様
TB&コメントありがとうございます。
「人生で最高のクリスマスをありがとう」、自分もツボで、滝のような涙を流していました(笑)
パンフレットよかったですよね。マイク・リー監督作品、作品同様いつもパンフレットも素晴らしくて、二度感動できますよね。
[ 2005/09/20 14:07 ] [ 編集 ]
TBさせて頂きました
素晴らしい映画でしたね あの娘の婚約者!私のツボでした(笑)
[ 2005/09/19 19:55 ] [ 編集 ]
>ななな様
TB&コメントありがとうございます。
おっしゃるように、この映画はほんとにいろんなことを考えさせてくれますよね。
しかも答えを提示せずに観客に委ねてくれるところがいいいですね。
TB削除の件了解しました。
[ 2005/09/17 17:52 ] [ 編集 ]
間違った記事をTBしてしまいました。
削除お願いします。

この映画ホント色んなことを考えさせられました。
何が悪くて何が正しいかを問いかける映画ではないのですがそんな所まで考えが及んでしまい・・・
難しい問題ってたくさんありますね。
[ 2005/09/17 11:14 ] [ 編集 ]
>(^-^)y-~~~様
TB&コメントありがとうございます。
おっしゃるようにこの映画は絆というものについて考えさせられますよね。
しかも、こうだという答えを示さずに、観客に委ねるラストが素晴らしいですね。
妹さんと大変仲がいいようで羨ましいです。
こういう映画を家族と一緒に観れるというのは素晴らしいことですね。
[ 2005/09/07 12:24 ] [ 編集 ]
多くの人がこの映画を観て家族や人の絆について考えているんだなあと
改めて実感しました。

『ライフ・イズ・ミラクル』は
ぼくの妹が観たがっているので
このページのことを教えてあげようと思います。

ぼくの記事もTBさせてもらっていいですか?
[ 2005/09/06 17:33 ] [ 編集 ]
>Cartouche様
TB&コメントありがとうございます。
「法律って・規則って?」、ほんとにそうですよね。
結婚指輪を外すシーンでほんとにそう思いました。
”若いから白と黒しかないね”も印象的でしたよね。

>peridot様
TB&コメントありがとうございます。
冒頭から日常の何気ないやり取りを丁寧に描いているからこそ、家族の絆が崩れかけるその様がより伝わるんですよね。
自分もピーター・バラカン氏のコメントは素晴らしいと思いました。

>丞相様
TB&コメントありがとうございます。
チョコレートのシーンはほんとに素晴らしかったですよね。
婚約者の心の美しさが染み入りました。
おっしゃるように、ヴェラの周りの人の視点から見ると、また違った側面が見えるかもしれませんね。
ジョニー・トー監督の記事読んで頂いてありがとうございます!
『ザ・ミッション/非情の掟』に打ちのめされて以来、ひたすら作品を追いかけています。
これからもさらにUPしていきたいと思いますので、また読んでいただけたら嬉しいです。 

>みどり様
TB&コメントありがとうございます。
婚約者の言葉のシーンはほんとに心に染み入りました。
「たとえ何かあっても、家族が一緒にいる。
何よりもそれが一番素晴らしい。」、ほんとにおっしゃるとおりですね。
[ 2005/09/06 13:16 ] [ 編集 ]
>Julia様
TB&コメントありがとうございます。
おっしゃるように、スタウントンの演技を堪能してしまうと、他の人の演技を観るのはつらいですよね(笑)
それほど彼女は凄かったと思います。

>おつぎ様
コメントありがとうございます。
「人生で最高のクリスマスをありがとう」、彼の心の美しさにはほんとにやられました・・・。
皆がこうありたいものですね。

>あ〜る様
TB&コメントありがとうございます。
マイク・リー監督の作品、他の作品も素晴らしいので、ぜひぜひご覧になってみてください。
彼の演出も凄いですが、それに応えられる役者たちが凄いですよね!

>ココ様
TB&コメントありがとうございます。
おっしゃるように、終わった後にいろんなことを考えさせられましたよね。答えを示さないところが素晴らしい。
あのラストカットには唸りました。
[ 2005/09/06 12:54 ] [ 編集 ]
はじめまして。TBありがとうございました。
私も婚約者の言葉はしみじみときました・・。よい映画でしたね。
こちらからもTBさせていただきました。
[ 2005/09/06 12:20 ] [ 編集 ]
こんにちは、TBありがとうございました。
私はヴェラのキャラクターには釈然としないものがあったのですが、あのチョコレートのやりとりをするシーンは一番素晴らしかったですね。婚約者のセリフが心に染み入ります。多様な解釈ができる作品なので、もし今度DVDで見ることがあったら、ヴェラの周りの人の視点から見てみることにします。

それと、ジョニー・トー監督の記事も読ませていただきました。
私もジョニー・トー監督の大ファンです。いろいろなジャンルも面白おかしく作る、映画職人ぶりがたまらないですよね。 
[ 2005/09/06 09:00 ] [ 編集 ]
>家族の何気ないやりとりだけでも2時間魅せるでしょう。
私もそう思います。
事件そのものよりも日常が大事ですね、この映画も、現実も。
[ 2005/09/06 06:21 ] [ 編集 ]
私もこの映画は大好きです。
中絶禁止という法律。そして27年間一度も外したことがない結婚指輪を泣く泣く外すシーで、規則って何?と考えさせられました。
イメルダ(なんか例の靴のイメルダさん思い出してしまうけれど。。)の”普通”の演技の素晴らしさ!確かにそうですね。
[ 2005/09/06 00:27 ] [ 編集 ]
TBありがとうございました。
この映画のすごさは、見終わったあとに色々なことを考えさせられるところにあると思いました。
私もTBさせていただきます。
[ 2005/09/05 23:48 ] [ 編集 ]
この映画で初めてマイク・リー監督の作品を観ました。
うまく表現できないですが、良い映画でした。
是非、他の作品も観たいと思います。(できれば映画館で)
しかし、あの演出...う〜ん、そういう手があったか!
[ 2005/09/05 21:34 ] [ 編集 ]
TBありがとうございます、一番のお気に入りのシーンが同じで・・泣きました、「人生で最高のクリスマスをありがとう」・・誰もが愛する人に囲まれていたり、愛されていたりするとは限らない、誰かが心配してくれたり、必要としたりする時、人間て希望や夢をもてるんだと思う、彼の魂の美しさに泣きました、これからもどうぞ宜しく!
[ 2005/09/05 19:08 ] [ 編集 ]
TBありがとうございました。
 
感想文がとってもお上手なので、また泣けてきました。

先週、「メトロで恋して」を観たのですが、このスタウントンの演技を堪能してしまったからには、他の人の演技がひど〜〜く感じてしまって、彼女の凄さがよく分かりました。

TBさせていただきます。
[ 2005/09/05 18:58 ] [ 編集 ]
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