2011.11.08

『アクシデント』(ソイ・チェン)

アクシデント

ジョニー・トー製作、ソイ・チェン監督の『意外』こと『アクシデント』、英語字幕では何度も観ていますが、こちらでもついに公開されたので、ようやく日本語字幕付で観れました!

『スリ』の感想で、冒頭、台詞一切なしでボタン付け一発でヤムヤムの人物像をわからせるトーさんの名人芸というようなことを書きましたが、この映画も、無くはないですが(特に一つ決定的に不要なのがあり)、基本的に説明台詞が一切ないところがいいですね。

ハンカチに包んでの小銭の払い方、家のドアに挟まれた1枚の葉っぱ、金庫に整然と並んだ札束、台詞なんか一言もなしで、見事に主人公の人物像を描き切っています。

そして、ジョン・ウー作品におけるチョウ・ユンファのような絶対的なスターがいない銀河映像のノワール映画では、代わりにチームとしての魅力がいつも描かれるわけですが、多少いざこざはあっても、最終的には深い絆で結ばれていくのがいつものパターンです。

それが、今回はチームの崩壊を描いていて、その崩壊は最後まで止まりません。
この点でまずはいつもとすでに違います。

その絆を描くのに、いつも効果的に使われているのが、「ジョニー・トー映画、“男たちの晩餐”名場面」「ジョニー・トー映画、“男たちの晩餐”名場面 vol.2」と2回に渡ってエントリーもUPした、トーさんの十八番、食事の場面です。

その意味をちゃんと理解しているソイ・チェン、今回、それを見事に生かした演出が。

まずは、最初に、“いつもの”雪ちゃんを見せます。
バスの2階での打ち合わせのシーン、仕事についての大事な打ち合わせですが、後から席についた雪ちゃん、挨拶もなしに、第一声が、「美味そうだな」。
そうです、相変わらず食べ物にしか目がいっていません(笑)
もらった食べ物に美味しそうにぱくつく雪ちゃん。

なんてことはない、いつもの雪ちゃんですが、このシーンを入れた意味は大きい。
今回は食べ物に興味がないなんてことはなく、いつも通り食べ物第一の雪ちゃんをまずここで観客に見せます。

その少しあと、本作で一番おおっ!と思った名場面が。
アジトで作戦を練っている4人、買い出しに行っていたミシェル・イェが、袋からホットドッグを取り出し「ホットドッグを買ってきてあげたわ」とルイスに手渡します。
そのホットドッグを、無言で雪ちゃんに手渡すルイス。

カメラは、その様子を眺めるフォン・ツイファンをアップで捉えた後、雪ちゃんとミシェル・イェの視線の交換を映し出します。
その直後の、ルイスを見つめるミシェル・イェの視線。
そんなのお構いなしに一人スープを飲むルイス。

時間にしてわずか15秒ほど。
でも、このわずかな時間で、この4人の関係を描き切っていると言っても過言ではありません。

何よりも、ホットドッグをもらった雪ちゃんが、ちっとも嬉しそうじゃない!
いつもなら、さっきのバスの時みたいに、嬉しそうにすぐにぱくつく雪ちゃんが、笑顔の一つもありません。
食べ物をもらっても嬉しそうじゃない雪ちゃん、前代未聞です。

ソイ・チェン、むちゃくちゃ巧い!
トーさんのいつもの食事シーンを逆手に取った、トーさんにも負けない見事なシーン。
こんなことができるソイ・チェンの演出力は本物。

とまあなぜか細かいところに着目してしまいましたが、後半は『カンバセーション…盗聴…』というという名作がすでに過去にあるわけですし、銀河映像映画という点で見れば、やはりハイライトはここでしょう。

皆さん、注目すべきはホットドッグです!

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[原題]意外
2009/香港/86分
[監督]ソイ・チェン
[製作]ジョニー・トー
[脚本]セット・カムイェン/ニコール・タン/銀河創作組
[音楽]グザヴィエ・ジャモー
[出演]ルイス・クー/リッチー・レン/ミシェル・イェ/ラム・シュー/フォン・ツイファン

→他の映画の感想も読む

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*Comment

■>西尾幹事さん

ありがとうございます、そう言っていただけて光栄です。

全員にレインコートを着させていたのは、おっしゃるように『PTU』でしたね。
あの映画も、余計な台詞なんかなしで、PTUが隊列を組んで夜の街を歩いているだけで、もうそれだけで十分に映画的でしたからね。
botにも載せたトーさんの「映像自体に語らせたい」という言葉、ヤウ・ナイホイやソイ・チェンのような弟子たちにもちゃんと受け継がれていますね。

“反復”というのもトーさんの特徴の一つですね。『PTU』でのゲーセンのくだりだったり、『エレクション』の“山頂からの木箱蹴り”だったり。
今回は、繰り返される「中止」のところの呼吸が絶妙でしたね。

具体的に余計だと思ったのは、日食の時の「間違ってた」の台詞です。
せっかく日食という素晴らしい映像的インパクトがあり、それだけで十分ルイスだけでなく観ているこちらも!となるわけで、あそこはルイスの表情だけでやってほしかったなと。

でも、不満といえばそれくらいで、素晴らしい映画でした。
micchii |  2011.11.15(火) 22:49 |  URL |  【コメント編集】

■流石の着眼点ですね。

全体的に“トー作品に似てるなぁ”と思いながら鑑賞していましたが、食事に目をつけられるところは、流石に数を観ておられる方だと感服しました。

チームの統一感と崩壊の描き方は巧かったと思います。全員にレインコートを着用させてチームの統一感を表現するのは、トー作品でも観た覚えがあります(『PTU』だったかな?)。しかし、それこそ食事をするシーンや計画を練るシーンなど、全員集合しているシーンでも、映画で最初の仕事を終えてからしてどこか不協和音めいたものが感じられて、さらに、大見せ場の雨中の事故捏造シークエンスでは、外的要因によって不吉な予感が強く漂い始め、結局はああいう結果になってしまう。説明台詞ではなく視覚的に設定や事態を描写する能力は、流石のミルキーウェイ・クオリティだと感心しました。

潜伏部屋でも、壁への書き込みでクーの執念を表現したり、行動の反復によって結末へ向けての焦燥感を煽ったりと、なかなかの手腕を見せてくれました。余計な台詞というのが具体的には思い出せないのですが、“トーならもっとシャープに仕上げることができたかな…”と思うところもなくもないです。が、これだけスリリングにして切ない(ラストは、ちょっとホロッときました)、高品質の犯罪映画を撮れるのだから、今後のソイ・チェン作品にも期待が高まりますね。
西尾幹事 |  2011.11.14(月) 12:29 |  URL |  【コメント編集】

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