2011.06.28

『ヒア アフター』(クリント・イーストウッド)

ヒア アフター

劇場に行こうと思っていたら例の公開中止で行けなかったので、ようやくBlu-rayで観れました。

観る前は中止はどうなんだろうと思っていましたが、判断は妥当でしたね。あの時期に、この映像はちょっときつい。
それほど冒頭の津波のシーンはある意味むちゃくちゃよくできていて、凄まじい光景。

ただ、そこを除けば、それ以降は、今こそ一人でも多くの方にご覧になっていただきたい映画。

イーストウッドの過去作と比べてどうだとか、脚本がどうだとか、テクニック的にどうだとか、そんなことはどうでもよく、もはや完全に名人芸の域に達しているイーストウッドの静かな語り口による、押し寄せる圧倒的な感情の波。

特にラストの「出会い」のシーンがほんとに素晴らしく、マット・デイモンの視線の先にいる、セシル・ドゥ・フランスの美しさ。

映画秘宝で町山さんが「さあここから佳境に入るぞ!ってとこで映画が終わっちゃうんだ」という理由でトホホの1位にしていましたが、あれ以上何を描くというんでしょうか、あれ以上何を描いてもそんなの蛇足でしかありません。

その前のところで手紙の内容を一切出さなかったイーストウッドが、そんなことするはずがありません。
あれ以上続けることは、そんなの「説明」でしかなく、説明過多な多くの映画と同じになってしまいます。
さすがイーストウッド、完璧な終わり方。

もちろん、そんなに都合よく3人が同じ場所に集まるわけないだろうと言われればその通りで、ご都合主義と言われればその通りでなんでしょうが、そんなことは、亡き大切な人の特徴をジョージ(マット・デイモン)に言い当てられた時の、聞いている人の思わず緩む表情で全て吹き飛ぶ、そんな映画。

特に、マーカスを演じた少年が素晴らしい。
何度も「偽物」に裏切られ、ついに巡り逢えた「本物」、彼の口から語られる、誰かにわかってほしかった話。
帽子を脱ぎ捨て一歩踏み出した彼もまた、ジョージが一歩を踏み出すのにささやかな手を貸すことに。

ヒア アフター

このように、本当に素晴らしい映画なんですが、静かな語り口による名人芸と同時に、ドがつく変態でもあるイーストウッド。
『ルーキー』で恍惚の表情を浮かべながらソニア・ブラガに犯されていた彼ですから、フィルモグラフィーを振り返ればそんなシーンには事欠かないわけですが、またもや語り継がれるであろう屈指の名場面が。

観た方が誰もが触れていた料理教室のシーン、ド変態イーストウッドの面目躍如、素晴らしすぎます(笑)
演出次第では脱がない方がよっぽどエロいというのは、「愛の神、エロス~エロスの純愛・若き仕立屋の恋~」でウォン・カーウァイがすでにアントニオーニ相手に見せつけていますが、そこにさらに「目隠し」という禁じ手をもってきたイーストウッド、これもまた、別の意味での名人芸(笑)
彼より遥かに若い監督だって、あのシーンをあれ以上に撮れる監督なんていないでしょう。

ヒア アフター 料理教室

そんなわけで、冒頭の津波のシーンは確かにちょっときついものがありますが、イーストウッドのいろんな意味での名人芸が堪能できる『ヒア アフター』、傑作とか名作と呼ぶつもりもありませんし、そんな呼び方が似合う映画とも思いません。

ですが、自分にとっては本当に大切な映画、そして、今の時代にこそ相応しい映画。
一人でも多くの方にご覧になっていただきたいと思います。





[原題]Hereafter
2010/アメリカ/129分
[監督]クリント・イーストウッド
[製作総指揮]スティーヴン・スピルバーグ/フランク・マーシャル/ティム・ムーア/ピーター・モーガン
[音楽]クリント・イーストウッド
[出演]マット・デイモン/セシル・ドゥ・フランス/フランキー・マクラレン/ジョージ・マクラレン/ブライス・ダラス・ハワード

→予告編 →他の映画の感想も読む

【関連記事】
『愛の神、エロス~エロスの純愛・若き仕立屋の恋~』(ウォン・カーウァイ)

 

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