2009.10.07

『ある殺し屋』(森一生)

ある殺し屋

『意外』の予告編にいただいたコメントで『必殺』シリーズの名前が出ましたので、今回はこんな映画を。

以前いつもお世話になっているにじばぶ様にも“男ならこれを観ろ!”に投稿していただきました、和製ノワールの傑作『ある殺し屋』です。
にじばぶ様、ありがとうございます!

→にじばぶ様のエントリーはこちら

にじばぶ様も書かれていますが、オープニングが抜群に素晴らしいですね。

人一人歩いていない、だだっ広い埋め立て地を歩く一人の男。
何かを確かめるようにボロ小屋を覗き込むと、近くにあるこれまたむちゃくちゃボロいアパートへ。
すぐ隣には、誰も訪れて来そうにない寂れた墓地。

出来過ぎだろ!というくらい、ノワールの舞台としては完璧でしょう。
ここまで一切台詞はなし。
風景と、男の立ち振る舞いだけで、一気にこの世界に引きずり込まれます。
カメラは宮川一夫、素晴らしいわけだ。

ある殺し屋 市川雷蔵

部屋を借りた男が、家具一つないボロ部屋の畳の上で包みを広げると、姿を現す二丁の拳銃。
そこに被さる『ある殺し屋』のタイトル。
『ウエスタン』『ペイルライダー』がオープニングだけで傑作だと確信できるように、この映画もここまでで既に傑作であることを確信。

この殺し屋塩沢に市川雷蔵。
実は凄腕の殺し屋ながら、普段はしがない小料理屋の主人。
武器は、拳銃も持っていますが、必殺技は畳針。
どこかで聞いたことのある設定ですね。
クールさにおいて、『サムライ』のアラン・ドロンに十分対抗できます。(2本とも同じ1967年!)

ただ、『サムライ』のアラン・ドロンは、ナタリー・ドロンやピアニストの存在はありましたが、基本的に話し相手は飼っている小鳥だけという、圧倒的な孤独がそこにはありました。

それに対して、この映画の市川雷蔵の周りには、彼に負けない存在感の脇役たちが。

健気に塩沢に尽くしてきた若い女中(若き日の小林幸子)を追い出して、強引に小料理屋に転がり込んだ圭子(野川由美子)。
本人が言っていたように、13で家出して以来、一人ぼっちで生きてきた女。無銭飲食しては体で払うという強者です。
次から次へと男を渡り歩き、今回も、一緒にいる男をこてんぱんにやっつけ、しかも財布に札束の山を見つけ、これは金の匂いがする!と彼に近づくことに。

塩沢は全く相手にしませんが、強引に居座る圭子。
小料理屋の接客では、水商売としての実力を発揮(笑)

そんな塩沢に仕事の依頼が。
頼みに来たのは、あるヤクザの幹部である前田という男。ここに成田三樹夫!
粘る前田ですが、どれだけ頼まれても首を縦に振らない塩沢。

それならと、今度は組長木村自ら頭を下げに来ます。この木村に小池朝雄!
いい面子ですね~。

ある殺し屋 小池朝雄

ヤクザ同士のいざこざなどどうでもいい塩沢はやはり断りますが、木村の粘りに負け、ついには仕事を受けます。
しかし、500万の依頼だったのに、2000万を要求!

“仕事”ぶりは観てのお楽しみとしておきますが、ホテルの廊下でのやりとりは、ヒッチコックの『見知らぬ乗客』を彷彿とさせますね。

そのあまりの仕事の見事さ(というより仕事の割の良さ)に、弟子入りを志願する前田。
断る塩沢ですが、諦めずにちょくちょく小料理屋に顔を出すようになる前田。

金目当てで塩沢に近づいた者同士、結びつく圭子と前田。
塩沢の金と前田の色気が欲しい圭子。
同じく金が欲しくて圭子を自分だけのものにしたい前田。
な~んだ、塩沢さえいなくなれば全てが手に入るじゃんと、彼を消す計画を練り始める二人。
しかし、相手は凄腕の殺し屋。そう簡単にはいきません。

ヤクの横取りという3人での仕事を計画し、その最中でのチャンスを伺います。


以下、ネタバレ全開

未見の方は、ご注意下さい。


















無事仕事を終え、分け前を配るという時に、隙を見てついに塩沢に拳銃を向ける前田。
しかし、なかなか引き金が引けません。

「お前は若いなぁ、一寸先も見えちゃいねえ、そんな物は早くしまいな」
「でけえ面すんな!命が惜しけりゃ這いつくばって頼むんだ!笑ってやるぜ」

横では、さっさとやっちゃいなさいよ!と騒ぐ圭子。

顔色一つ変えずに冷静沈着な塩沢と、冷や汗たらたらで引き金が引けない前田。

ある殺し屋 成田三樹夫

ついに思い切って引き金を引くも、弾は出ません。

「俺の負けだ、どうにでもしてくれ!」と殺されるのを覚悟した前田に、「仕事は仕事だ」と分け前を与え、自分も若かった時は同じことを考えたさと、何もなかったかのように二人を許す塩沢。

「塩沢さん…」

さっきはあんな口をきいていたのに、再び塩沢に敬称をつける前田。

その後、ヤクを横取りされた連中との大乱戦がありますが、映画が痺れるのはラストシーン(正確にはその後もう少しだけありますが)。

金のためではなく心から弟子入りを願う前田が一緒に連れてって下さいよと頼むと、「色と仕事のけじめのつかねえ男はごめんだな」の決め台詞を残し、取り分もあげて一人去っていく塩沢。

そこへ、少し離れたところにいた圭子が戻ってきて、一緒に連れてってよと前田に頼みます。

ここでの成田三樹夫が、おいしいところは全部持っていってしまいます。

「女は色と仕事のけじめがつかねえ、ごめんだな」

ヤクも置いたままで、一人去っていく前田。
むちゃくちゃかっこいいですが、直前に自分が捨てられた台詞の完全にパクリです(笑)
このかっこいいんだか情けないんだかよくわからない成田三樹夫が最高!

さて、この映画の素晴らしさのさらなる点は、時間がわすが82分だということ。
しかも、その短い中で、『パルプ・フィクション』のように時間軸の交差をやったりして、なかなか脚本も凝っています。

市川雷蔵のかっこよさだけでも十二分に痺れる映画ですが、それに負けない成田三樹夫がおいしいところは持っていき、小池朝雄までついてきて、脚本も素晴らしく、撮影は宮川一夫という、むちゃくちゃ贅沢な1本。

必見の傑作。



1967/日本/82分
[監督]森一生
[脚本]増村保造/石松愛弘
[撮影]宮川一夫
[出演]市川雷蔵/野川由美子/成田三樹夫/小池朝雄/小林幸子

→予告編 →他の映画の感想も読む

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「レンタルビデオ屋始めました」バトン “男ならこれを観ろ!”店

 

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*Comment

■>よしぼうさん

早速ご覧になりましたか。

あのボロ屋はかなりポイントが高いですよね。ありえないくらいの寂しさでした(笑)
戦争についても、長々と語らずに、さりげなく写真を挿入するだけで、あとは飛行機をちょっと強調するくらい、匙加減が見事でしたね。
確かに、“狂気”や“エグさ”が足りないですが、この映画ではちょっと方向性が違いますかね。

それにしても、これで“普通”とは、まだまだ傑作は溢れていそうですね!

おっしゃるように、役者は魅力的な悪役が演じられてこそ一流ですね。
micchii |  2009.10.09(金) 15:21 |  URL |  【コメント編集】

■さっそく観ました

あのボロ屋はイイですね。時間をズラして興味を引いていくところや、圭子の足に刺さった針から、針を使った殺しに繋いでいくところも見事ですね。戦争がさりげなく殺しの動機になっているのも、時代を表していて何とも言えません。
雷蔵はさりげなくシブいし、増村の脚本もモダンなところが出ていていいです。

大映映画としては、普通のレベル、増村にしては”狂気”や”エグさ”が足りないかと・・・
脚本の増村保造は大映映画の看板監督で、わりと文芸作品が多いのですが、文学作品の持つ”毒”や”狂気”を、娯楽作品に、巧みに盛り込んで、面白い映画をいくつも撮っています。森一生監督は増村よりタッチが軽いよですが、これはこれでアリだと思いました。

増村監督の作品で好きな映画をあげると、まず昨日書いた『赤い天使』、戦場の血にまみれた従軍看護婦がヒロイン。ただ、この映画はヒロインの○○○シーンからはじまる。『盲獣』、最高の芸術を完成させるため、モデルを誘拐する男。しかし、彼は盲人だった。芸術は狂気をはらみ・・・
『刺青』誘拐した町娘に刺青を彫る男。娘は稀代の悪女となり、ヤクザや旗本を誘惑。男達は娘をめぐり悪事や殺人を犯していく。
増村はハズレのない監督ですが、この3本は特にイイです。

昨日紹介した雷蔵作品ですが、ファンはあまり評価しません。なぜなら、雷蔵がカッコ悪い役をやっているからです。
『炎上』は、ドモリという、障害を根にもち、犯罪を犯す僧の役だし、『忍びの者』は悪の首領に、いいように使われ、泥棒や暗殺をやらされる忍者の役です。でも、こんな役ができるから一流だし、そんな雷蔵は素晴らしいと思うのです。


よしぼう |  2009.10.08(木) 23:08 |  URL |  【コメント編集】

■>tonboriさん

成田三樹夫にニヤニヤしっぱなしだったんですが、市川雷蔵にも痺れまくりでした。噂には聞いていましたが、ここまで渋くてかっこいいとは!
時代劇の方も少しずつ観ていけたらと思います。
micchii |  2009.10.08(木) 10:42 |  URL |  【コメント編集】

■>にじばぶさん

はい、ついに観ました!
にじばぶさんに投稿していただいた映画はいつも素晴らしいものばかりですが、今回は『サムライ』と並んで極上の逸品!
あのシチュエーションは確かにありえないですが、雰囲気は最高でしたね。
『仁義なき戦い』とはまた違う成田三樹夫がほんとに最高でした。

素晴らしい作品に出会えないお話ですが、凄い数ご覧になってますので、相性がいい映画をかなり観てしまったんでしょうかね。
自分はまだまだ感動しまくりですが、いつかその境地に達する日も来るんでしょうか・・・。来ない方が幸せなような気もしますが(笑)
micchii |  2009.10.08(木) 10:38 |  URL |  【コメント編集】

■>Cardhuさん

雷蔵映画祭、東京だけかと思ったら、他でもやるみたいですよ!
野川由美子、別の意味で“必殺”でしたね(笑)
『兵隊やくざ』、映画百選にも「レンタルビデオ屋始めました」バトンにも入ってましたよね。ぜひ観てみたいです!
micchii |  2009.10.08(木) 10:33 |  URL |  【コメント編集】

■>よしぼうさん

未見でしたら、赤字のところでやめていただいて正解でした。おいしいところはみんな書いちゃってますので・・・。

映画鑑賞歴を見ていただければわかると思いますが、邦画はド素人なので、『眠狂四郎』はちらっと観たことはありますが、市川雷蔵も増村保造も全然観たことはありません・・・。
挙げていただいた作品を中心に徐々に観ていけたらと思います。
micchii |  2009.10.08(木) 10:24 |  URL |  【コメント編集】

■雷蔵先生は何時見ても

カッコよすなあ(笑)
いや時代劇の立ち振る舞いも右太衛門先生や千恵蔵先生とは違う色気というか、ニヒルさというか。
この「ある殺し屋」を最初に観たのは実はTVの映画放送。
このシブさにはしびれましたねー。
続編はちょっとアレなんですけどもね、こちらの渋さは日活や東宝とはまた違う良さがありました。
tonbori |  2009.10.07(水) 23:09 |  URL |  【コメント編集】

■ご紹介ありがとうございます!

ご紹介ありがとうございました。
お久しぶりです、にじばぶです。

さて、『ある殺し屋』ご覧になりましたか!
ミッチーさんの超お気に入り、『ウエスタン』のオープニングに匹敵するとのお言葉、とても嬉しいです。
あのありえないくらいのくら~い雰囲気と演出が素敵な作品ですよね。
市川雷蔵と成田三樹夫のコラボも素晴らしすぎです。

ところで、最近はこういったレベルの素晴らしい作品になかなか出会えません。
映画に慣れてしまったのか、それとも、相性の映画を先に観すぎてしまったのか、原因は不明ですが、憂慮すべき事態です。

どうにか、この枯渇状況を打破したいのですが、なかなか感動きわまる映画に出会えません。
本数的には極端に減っていないんですけどねぇ・・・
にじばぶ |  2009.10.07(水) 22:06 |  URL |  【コメント編集】

■雷蔵映画祭もありますね~

劇場でみるチャンスですが・・・北海道まで来るのかな・・・。
大映スターだと勝新太郎派ですが、この映画も格好いいですよね!雷蔵のクールさが見事に活かされた作品だと思います。野川由美子が必殺の香りをほのかに漂わせてくれますね、笑

それにしても・・・増村保造が脚本だったのですね~監督作『兵隊やくざ』もいいですよ!笑
Cardhu |  2009.10.07(水) 21:10 |  URL |  【コメント編集】

■ぜひ観たい一本!!

今回はエントリをわざと読んでいない。
なぜなら、ぜひ観たい一本だからです。
ネタバレの赤い文字であわてて、見るのやめました。
市川雷蔵主演。原作が「赤い殺意」の藤原審爾。成田三樹夫や小池朝雄らの共演。なによりも脚本があの大監督、増村保造!!
増村ファンとしては、ハズすことができない作品です。増村の作品は何でも素晴らしいのですが、一本あげるなら「赤い天使」をあげておきましょう。ビックリしますよ。
せっかくだから、この作品もまだ未見だけど、増村が監督してくれたらと思います。
あと雷蔵の作品では何がいいですか。
眠狂四郎もいいけど、私としては市川崑監督の「炎上」や、山本薩夫監督の「忍びの者」、「続・忍びの者」あたりをあげたいと思います。ものすごく素晴らしいですよ。
今回は周辺の話でスイマセン。「ある殺し屋」も早く観たいです。
よしぼう |  2009.10.07(水) 19:45 |  URL |  【コメント編集】

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ある殺し屋

ある殺し屋 市川雷蔵、渋いぜ。 映像もかなり気に入ったね。 墓場の隣のボロッちいアパートに集まる市川雷蔵、成田三樹夫、野川由美子。 すげえいい雰囲気なんすよ。 たまんねえなこりゃ。 出てくるアイテムは、ボロアパートとか鮨の折詰とか板前とか、 すっごい日..
2009/10/09(金) 07:51:51 | カフェビショップ

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