2009.08.19

『狼は天使の匂い』(ルネ・クレマン)

狼は天使の匂い

「なぜ戻った」
「ビー玉のためさ」

紙屑投げから紙屑サッカーへ、煙草積み上げから仕掛け煙草へ。記念写真も忘れずに。
40年の時を越え、オヤジたちの遊び心はフランス(舞台はカナダ)から香港へ。
“ただいま、男だらけの放課後”、ここに始まる。

というわけで今回は、念願叶ってついに観れました、『狼は天使の匂い』です。

いつもジョニー・トー作品について書く時に引用している、映画秘宝の“ただいま、男だらけの放課後”という言葉。
正確には、映画秘宝2006年1月号でギンティ小林氏によって書かれた言葉です。

『ヒーロー・ネバー・ダイ』のワイングラス割り対決を筆頭に、『ザ・ミッション/非情の掟』の紙屑サッカー、仕掛け煙草や、『エグザイル/絆』の空き缶サッカーなどなど、いい歳したおっさんたちによる、中学生レベルの遊びの数々。

トーさんがフレンチ・ノワールと70年代アメリカアクション映画のファンだというのは以前にも書きましたが、紙屑と煙草で遊び、みんなで記念写真に収まる。『ザ・ミッション/非情の掟』『エグザイル/絆』の例のシーンは、もろにここからですね。

狼は天使の匂い 記念写真

トーさんの映画でも、それら“緩”の部分と銃撃戦などの“急”の部分、その緩急が絶妙なわけですが、この映画は、緩すぎるといってもいいくらい。

ある強盗団のアジトに、たまたま転がり込むことになった一人の男トニー(ジャン=ルイ・トランティニャン)。

招かれざる客のトニーが、一人、また一人と彼らの心をつかんでいき、いつしか彼らの仲間になっていく。

“仕事”に向けて映画が動き始めるのは半分以上経ってからで、それまでは、しょうもないことに夢中になるいい歳したおっさんたちを、カメラは淡々と捉えていきます。
植木鉢に紙屑を投げ入れたり、煙草を縦に積み上げたり。

ただ、今回は“ただいま、男だらけの放課後”といっても、女性も2人います。
大人の魅力のシュガー(レア・マッセリ)と、若く可憐なペッパー(ティサ・ファロー)。
さすがはジャン=ルイ・トランティニャン、二人からモテモテですが、彼でなくても選ぶのはティサ・ファローの方でしょう(笑)

狼は天使の匂い ティサ・ファロー

賭事が大好きな強盗団のリーダー、チャーリーに、これが最後の代表作となった、名優ロバート・ライアン。
仲間からの信頼も厚く、圧倒的な存在感の彼が時折見せる、子供のような屈託のない笑顔。
トニーと煙草積み上げの賭けに夢中になる彼の表情は、強盗団のリーダーのものとはとても思えません。

狼は天使の匂い ジャン=ルイ・トランティニャン

トニーから買った腕時計と、元々持っていたのを両腕につけ、いざという時に時間がわからなくなってしまうリッツィオ(ジャン・ガヴァン)。
自作のチェスの駒をトニーに誉められ有頂天になる芸術肌でもありながら、得意技はボール投げ(笑)

トーさん作品でいう雪ちゃんに該当する、元ボクサーの大男マットーネ(アルド・レイ)。
俺たちは坊主かよとシュガーの風呂を覗くも、チャーリーに見つかり大目玉。
出掛けた街でナンパした女の彼氏を一撃でノックアウトするも、この女がとんでもない女で、後々後悔しても遅い展開に。

一応犯罪サスペンス映画でもあるわけですが、計画自体はかなりいい加減で、そもそもあの消防車をいつの間にどうやってビルの18階まで運んだのか(笑)

案の定計画は綻びを見せ、一人、また一人と、捕まったり死んだりしていく仲間たち。
彼らの脳裏に最後によぎったのは、別れた家族との思い出だったり、チャーリーに教えてもらった適当なお祈りだったり。

致命傷を負い、自らの死を覚悟したチャーリーは、トニーとペッパーに金を持って逃げろと促します。

このまま去れば、女と幸せに暮らすことができる。
でも、『ヒート』のロバート・デ・ニーロではありませんが、男には、漢には、戻らなければならない時があるんです。
それによって、二度と幸せが手に入らないことがわかっていたとしても。

「なぜ戻った」
「ビー玉のためさ」

狼は天使の匂い ロバート・ライアン

この後の“男ならこれで泣け!”な展開は観てのお楽しみとしておきます。

トニーが戻ってきた時のチャーリーの笑顔は『ガンマン大連合』のトーマス・ミリアンに肩を並べ、男たちの遊び心は『ザ・ミッション/非情の掟』を超える。

犯罪サスペンスとしてはとても傑作とは言えませんが、ファンタジーとして、“男ならこれで泣け!”としては、オールタイムベスト級の、文句なしの大傑作。


「愛しき者よ、僕達は就寝時間が来たのに眠るのを嫌がって、むずかっている年老いた子供にすぎない」~ルイス・キャロル~

狼は天使の匂い [DVD]狼は天使の匂い [DVD]

紀伊國屋書店 2009-07-25

狼は天使の匂い (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)狼は天使の匂い (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
デイヴィッド・グーディス

早川書房 2003-07-15

[原題]La course du lièvre à travers les champs
1972/フランス・イタリア/135分
[監督]ルネ・クレマン
[原作]デヴィッド・グーディス
[脚本]セバスチャン・ジャプリゾ
[音楽]フランシス・レイ
[出演]ロバート・ライアン/ジャン=ルイ・トランティニャン/レア・マッセリ/アルド・レイ/ティサ・ファロー/ジャン・ガヴァン

→予告編 →他の映画の感想も読む

【関連記事】
「大きなこどもたちの挽歌」
ルネ・クレマン監督『狼は天使の匂い』、ついにDVD発売!
“男ならこれを吐け!”BEST10
オースタイムベストの1本 『狼は天使の匂い』のパンフレットをゲット!
男の子ならジョニー・トー!

 

TB(1) CM(6) EDIT

*Comment

■>都人ぶぶづけさん

初めまして、コメントありがとうございます。
もちろん最後は殺されてしまうでしょうが、そこまで映してしまっては台無しなので、あそこで終わるしかないですね。
個人的には、主人公二人は子供の頃に出会ってたということはないと思うのですが、“あの頃の記憶”に共有できるものがあるのでしょうね、ビー玉はただの象徴として。
フランシス・レイの音楽よかったですよね。
micchii |  2011.01.16(日) 00:23 |  URL |  【コメント編集】

■いつまでも少年

私の両親の若い頃の作品です。フランシス・レイの曲が心に響きます。謎ですが、主人公二人は子供の頃に出会っていたのでしょうか? ビー玉投げをした頃に...。その映像でフランス大女優エマニュエル・べアールさんがワンカット・シーンで登場していました。たぶん6,7才の頃の彼女は、とても美少女!
 結局、おじさま二人は、警官隊に殺されてしまうのでしょうか? ナゾナゾだらけの映画ですね。
都人ぶぶづけ |  2010.07.24(土) 08:59 |  URL |  【コメント編集】

■>よしぼうさん

『鎗火』気に入っていただけたようで何よりです。
今では観た映画が50本を越えましたが、トーさんにはまるきっかけになった最初の1本です。

確かに、“書き過ぎ”ですね。熱くなってついついみんな書いてしまいました・・・。

このゆるさ、ぬるい人にはぬるいんでしょうが、肌に合うと抜け出せなくなりますね。
micchii |  2009.08.22(土) 13:11 |  URL |  【コメント編集】

■>マサヤさん

こちらにもありがとうございます。
ジャンル分けが無意味な映画ですが、“男のファンタジー”というのはしっくりきますね。
これからも何度も観る映画になりそうです。
micchii |  2009.08.22(土) 13:06 |  URL |  【コメント編集】

この映画の眼目が”遊び”にあることは書いたことがありますが、そのときはほとんどトーさんの作品を観たことがありませんでした。

でも、micchiiさんがそうまで熱狂するとは、どんなものかと、念願叶って「鎗火」を観てハマったところなので、この文章は、まさに直球ストレートです。

でも、今回、珍しく全部説明してししまっているので、これでは映画観る必要ありませんね。

それは置いといて、確かにユルいんですよね。ただ、この、まったり感、結構癖になりそうですね。
よしぼう |  2009.08.19(水) 23:19 |  URL |  【コメント編集】

■最上級の男のファンタジー

もしかしたら“男のファンタジー”という呼称が一番この作品のジャンルに相応しいかもしれません。
それくらい男心をくすぐる傑作ですね。
TBさせていただきました。
マサヤ |  2009.08.19(水) 23:12 |  URL |  【コメント編集】

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

*Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://micchii.blog4.fc2.com/tb.php/1105-3dc283f8

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

『狼は天使の匂い』

ルネ・クレマン監督の『狼は天使の匂い』を国内盤DVD(紀伊国屋書店)で観た感想。 『LA COURSE DU LIEVRE A TRAVERS LES CHAMPS』(72年) 監督:ルネ・クレマン 原作:デヴィッド・グーディス 脚本:セバスチャン・ジャプリゾ 撮影:エドモン・リシャール 音楽:...
2009/08/19(水) 23:05:47 | LE CERCLE ROUGE BLOG

▲PageTop

 | BLOGTOP |