2009.07.27

『三国志』(ダニエル・リー)

三国志

「我、人に背くとも、人、我に背くなかれ」

『レッドクリフ』で盛り上がった三国志ブームですが、これを忘れてもらっては困るということで、その名もずばり『三国志』です。

原題は『三國之見龍卸甲』ですが、いくらなんでもこの映画で『三国志』は無茶でしょう。
その訳は追々明らかになると思いますが、『レッドクリフ』にこんなの三国志じゃない!と激怒した方、今回はそれ以上に激怒することになるかもしれません。
ですが、映画の完成度としては『レッドクリフ』の方が数段上でしょうが、三国志ファンとしてニヤリとする回数が多いのは、実はこっちかもしれません。

オープニングクレジット、どこかで聞いたような音楽が後ろで流れます。ご丁寧に掛け声付き。
しまった!間違えて『荒野の用心棒』を借りてきてしまったか!それとも、『夕陽のガンマン』
冗談かとお思いでしょうが、冗談ではありません。
聞いていただければわかりますが、エンニオ・モリコーネのマカロニウエスタンそのものです。(途中から中華風の音楽に変化しますが)

この時点で、つかみはOK。そして、映画の観方も自然と決まります。『シューテム・アップ』で人参が突き抜けた時に映画の観方が決まったのと同じです。
細かいことに突っ込んでいては、この映画は楽しめません。

以下、ネタバレ全開。

未見の方は、ご注意下さい。




















趙雲はなんと、一兵卒として登場(笑)
圧倒的多数の曹操軍に対し、劣勢の劉備軍。しかも、劉備の本陣ですらなく、知った武将は誰もいません。
代わりに、サモ・ハン扮する架空の羅平安という人物が登場。趙雲の同郷の先輩で、彼を兄と慕う趙雲。
志だけはでかい羅平安ですが、才能はゼロで、それが後々まで響くことに…。

迫りくる曹操軍。切り取った耳を送りつけて脅しをかけ、すでに戦意喪失の劉備軍。
そこに登場する一人の男。
援軍が来たのかと期待する兵士たちですが、来たのは彼一人です。
別にかっこいいわけでもなく、どこにでもいそうな普通の男。

三国志 ダニエル・リー 孔明

はい、何を隠そう、彼こそが諸葛孔明その人です(笑)
でも、金城武が爽やか過ぎたのであって、実際はこんな感じでしょう。

1万の曹操軍に対し、わずか1000人の劉備軍。
夜襲をかけようと孔明。兵士たちに策を授けます。たいした策ではありません(笑)
しかし、得意技の天気予報で雷雨を予報。降らなかったらこの首を差し出すと絶対の自信。

案の定降り出す大雨。
雨に喜び攻撃の準備をする兵士たちを横目に、早くも去っていく孔明。
戦いが始まる前に去っていくわけですが、捨て台詞がかっこよすぎ。
「人生は将棋に似たり、一手で勝負が決まる。ここは勝った、次を助けに行かねば」

孔明の作戦通り、見事に勝利を収める劉備軍。
敵の隊長を倒したのはもちろん趙雲ですが、趙雲は手柄を全て羅平安に譲ります。

その功により、劉備の家族の警護を任される羅平安。
そうです、趙雲を主役にしておいてこれを外すわけにはいきません、長坂の戦いです。

あろうことか道に迷い、曹操軍に追いつかれ、一人本陣まで逃げてきた羅平安。
無事に役目を果たしては趙雲の出番がないので、ここは当然の流れでしょう。

劉備に家族を見失ったと報告する羅平安。
怒った張飛が羅平安を殺そうとすると、その槍を平然と受け止める趙雲。

三国志 アンディ・ラウ サモ・ハン

さあ、『レッドクリフ』では観られなかった、趙雲vs張飛のガチンコバトルです!
実際はほぼ互角か張飛のがやや上だと思いますが、主役はアンディ、もちろん趙雲優勢(笑)
そこへなんと、見かねた関羽も参戦。趙雲vs張飛&関羽。これではいくらなんでも趙雲が劣勢のはずですが、完全に互角(笑)

動きが速過ぎてキャプチャできませんでしたが、ここで注目したいのは、関羽が持っているのがちゃんと青龍閻月刀であり、張飛が持っているのがちゃんと蛇矛であるということ。
これはかなりポイントが高い。ダニエル・リー監督、わかってますね~。

力を認められた趙雲は阿斗の救出に向かいます。
「私と張飛が援護し、お前の血路を開いてやろう」と関羽。
分かり合った本物同士の男の会話、いいですね~。

関羽や張飛たちが敵を引きつける中、阿斗を見つける趙雲。
しかし、あっという間に曹操軍に囲まれてしまいます。

ここはさすがのアンディも分が悪く、『レッドクリフ』のフー・ジュンの方が遥かにかっこいいです。
しかし、『レッドクリフ』の趙雲には周りに一応味方がいましたが、今回は文字通り一人です。
“百万の曹操軍の中を阿斗を背に単騎駆け抜けた”と言われる名場面ですから、これも正しい。

例によって、武将集めが趣味の悪い癖が出て、殺そうと思えば殺せるのに、「いつか私が捕らえてやる」と趙雲を逃がす曹操。
ここでは、曹操よりも、曹操の隣で全てを見ていた小さな女の子が大事です。
これも架空の人物ですが、曹操の孫娘という設定の曹嬰。彼女が大きくなるとマギー・Qになります(笑)

この後故郷に凱旋して、ちょっとした恋もありますが、『レッドクリフ』みたいなあんなことには全然ならず、彼女はあっさり退場。もちろんラブシーンなんか一切なし。

102分の映画ですが、ここまでで40分。
この映画が凄いのは、ここからです。
わずか3分弱の間に、劉備が皇帝になったかと思ったら、劉備も関羽も張飛もみんな死んでしまいます(笑)
五虎将軍で残ったのは、早くも趙雲ただ一人。いくらアンディ主演の趙雲が主役の映画とはいえ、この脚本はある意味凄すぎる!
そして、いきなり北伐です。

孔明が皆に向かって真面目に話している横で、女官相手に遊んでいる劉禅。
これもかなりポイントが高い。まさか成長した劉禅まで出し、しかもちゃんとバカとして描いているとは!

関羽と張飛は死んでしまっているので、代わりに関興と張苞登場!
しかも、お互いに意地を張り合って先陣争いをするなど、お約束付き。
二人で争っていると、そんな場合かと趙雲再登場。
かなり年取った趙雲ですが、アンディなのでそれでも十分かっこいい(笑)

なぜ私も北伐に参加させてくれないんだと迫る趙雲に、孔明はこう耳打ちします。
「子龍どの、我らは老いた。思い出が生きるよすがだ。それを失っていいのか?」

趙雲は答えます。
「長き戦いで、思い出も遠くに消えた。薄れた記憶を呼び覚ましたい、思い出を失った戦場に再び立つことで」

いいですね~。さあ、趙雲最後の戦いの始まりです!

そんな趙雲の前に立ちはだかるのが、魏の韓徳。
皆さん、韓徳ですよ、韓徳。ちなみに、魏で名前付きで登場する武将は彼一人です。
なんなんだこのマニアックさは!さすがは、祖父も父も三国志の研究家というダニエル・リー監督、恐るべし…。

「五虎将軍が名を轟かせたのは大昔のこと。過去の栄光に浸ってろ」と韓徳のきっつい一言(笑)
カチンときた趙雲、韓徳の息子4人をあっさりと切り捨てます!

すかさず撤退する韓徳。
しかし、これは作戦通りで、待ち伏せに遭う趙雲軍。思い出の地、鳳鳴山へと追いつめられます。
さあ、いよいよ真打ちマギー・Qの登場です!

実は、一番泣かせるのが、なんと、この曹嬰と先ほどの韓徳との関係なのです。

「あなたは今日、4人の息子を失ったが、代わりに娘を得た。私を娘と思え」
「身に余る光栄です」
「父上」

なんと、韓徳相手に膝までつく曹嬰。

「この命を差し上げても、都督のお情けに報いきれません」

部下たちも涙を流し、一気に士気が高まる曹嬰軍。

そして、早くも曹嬰の必殺技が炸裂!
趙雲軍の遺体を丁重に送り届けつつ、悲しげな音色を奏でます。

三国志 マギー・Q

一気に戦意喪失の趙雲軍。

睨み合う両軍。
ここで、期待通りの展開に。
もちろん趙雲vs曹嬰の一騎打ちです!

三国志 マギー・Q

三国志 アンディ・ラウ

一騎打ちも終わり、再び対峙する両軍。
この膠着状態から抜け出すには、共に命を捨てて打って出る部隊が必要です。

曹嬰は韓徳にこう切り出します。
「父上、手を貸してくれますか」

私のために死んでくれるか、そう言われたようなものですが、すでに曹嬰のために命は捨てている韓徳、もちろん受けます。
「今こそ、あなたのご恩に報いる時。命に代えても、敵を倒します」

一方、趙雲軍では、一番の部下である鄧芝が趙雲にこう切り出します。
「将軍、我々はおそばを離れます。戦って死ぬのが男の誇りだとあなたに教わった。あなたの名のもとに山を下り、突撃し、曹嬰を討ちます。趙雲の兵として生き、死しても魂はお仕えします。将軍、どうか我々に命令を!」

もちろん、これを受けない趙雲ではありません。
「お前たちを率いて勝利に導く事はかなわぬが、死んでも、異郷の地の亡霊などにはしない。行け、私もすぐ後に続く」

これだよこれ。ジョン・ウーも顔負けの、この熱さ!
曹嬰の琵琶の音色をバックに、命を捨てた男たちが真正面からぶつかる、最後の決戦の時!

ところが、韓徳と鄧芝を始め両群の突撃隊が死闘を繰り広げる中、曹嬰は無情にもそこへ大量の火矢を浴びせます。もちろん味方もお構いなしです。
さらに、韓徳たちの馬の鞍には仕掛けがしてあり、火矢を受け次々と爆発。鄧芝たちと違い、韓徳たちは文字通り捨て駒にされたのです。

味方をも殺すことに躊躇う部下たちに、自ら韓徳の馬の鞍を狙う曹嬰。
「我、人に背くとも、人、我に背くなかれ」
その目には、うっすらと涙が。

全てを悟り、無言で頷く韓徳。
この瞬間だけは、間違いなく『三国志』は『レッドクリフ』を超えた。

三国志 ユー・ロングァン

ここまでで十二分に盛り上がっていますが、もちろん最後は趙雲の突撃です!あの時と同じように、たった一人で!

「孔明に伝えてくれ、“思い出を取り戻した”と。私の人生は、大きな輪を描いただけだ。だが美しい輪だった」

脳裏をよぎる関羽や張飛との思い出。バックには、再びエンニオ・モリコーネ!

この記事を読んでいただければわかるように、突っ込みどころ満載の映画ですが、少なくともわかるのは、ダニエル・リー監督がジョン・ウーよりも三国志マニアであり、漫画が大好きであり、「三国無双」の大ファンであるということ(笑)

『レッドクリフ』と同じようなものを期待されるとずっこけると思いますが、実は痺れるのはこっち、観て損はさせません。



[原題]三國之見龍卸甲
2008/中国・韓国・香港/102分
[監督]ダニエル・リー
[出演]アンディ・ラウ/マギー・Q/サモ・ハン/ヴァネス・ウー/アンディ・オン/ダミアン・ラウ/ユエ・ホア/ティ・ロン/ユー・ロングァン

→予告編 →他の映画の感想も読む

【関連記事】
アンディ・ラウ版「三国志」始動!!
『レッドクリフ Part I』(ジョン・ウー)
『レッドクリフ Part Ⅱ -未来への最終決戦-』(ジョン・ウー)

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*Comment

■>よしぼうさん

ご覧になっていただけましたか。

「マカロニ三国志」、ナイスなネーミングですね。
確かにつっこみどころ満載な映画ですが、一部人間にはつぼにはまる映画ではないかと思います。

『イングロリアス・バスターズ』、予告編の最初はもろに『特攻大作戦』ですね。囚人たちの顔がずいぶんと小粒ですが(笑)
ブラッド・ピットはリー・マーヴィンと比べるのもかわいそうですね・・・。
でも、映画は楽しみにしています。
micchii |  2009.08.22(土) 13:18 |  URL |  【コメント編集】

■まかろに三国志

micchiiさんにつられて観ましたが、本当に困った映画ですね。

まあ、私の「三国志」は、「蒼天航路」と「レッドクリフ」のチャンポンで、「三国志演技」は買ったまま、ツン読です。だから、エラそうなことは言えませんが、
少なくとも、もっとスケールありますし、勝手に人物を創作するなんて・・・っていうセカイですよね。

ただ、この記事を読んでいたので、
大好きなマカロニと思えば腹も立たないし、楽しく観れました。

「三国志」って集団戦のはずなのに、やたらと決闘大好きで、戦う武将も韓徳一人ってところまで、マカロニですよね。

ところで、マカロニといえば、タランティーノの「イングロリアス・バスターズ」(イタリアの戦争映画「地獄のバスターズ」のリメイク)が完成したようですね。予告編観ると、「特攻大作戦」+「戦争のはらわた」という感じで、面白そうなので今から楽しみです。
よしぼう |  2009.08.19(水) 23:38 |  URL |  【コメント編集】

■>Ayuさん

こちらこそお久しぶりです。

こんなエントリーでも、観たくなったと嬉しいお言葉ありがとうございます!

自分は『レッドクリフ』も大好きですが、あれに冷めてしまったなら、こっちのが性に合う可能性は少なくないと思います。
悪く言えばあっちはスケールが大きい分薄れてしまっている部分があると思いますが、こっちはかなり絞り込んでいるので、ぎゅ~っと詰まっているかと。

感想楽しみにお待ちしていますね♪
micchii |  2009.08.09(日) 14:53 |  URL |  【コメント編集】

■>やっほーさん

レスが遅れました、申し訳ありません。

『エグザイル/絆』の時にも書きましたが、女性にもこの手の“泣き”がお好きな方は少なくないですし、“男ならこれで泣け!”というのは考え直さないといけないかもしれませんね・・・。

おっしゃるように低予算の超スピンオフですが、魂の熱さでは全然負けてないですよね!

趙雲の一言、思い出しただけでもこみ上げるものがありますね~。
micchii |  2009.08.09(日) 14:48 |  URL |  【コメント編集】

■もしかしたら・・・

micchiiさん、お久しぶりです!

この映画は実は未見なんですが、かなり観たくなりました!!
「レッド・クリフ2」の中盤から、物語自体が盛り上がれば盛り上がるほど、逆に冷めてしまった私にとっては、意外にもコッチの方が性に合っているかもしれません。っというか、この作品のほうが激怒しないかも知れない・・・

この映画を鑑賞したら、また遊びにきますね。
Ayu |  2009.08.09(日) 03:16 |  URL |  【コメント編集】

さすが!micchiiさん。
あたしもこれは泣きました。
オトコではないけれど・・・・。

「赤壁」より低予算、「赤壁」よりうんとさらにスピンオフ!!
でも、あの、混沌とした戦いの時代の魂を物語る熱い作品だったと思います。

この作品、大好きです。

あの最後の趙雲の一言!!くわあああ。
また、泣きそうです。
やっほー |  2009.08.01(土) 20:54 |  URL |  【コメント編集】

■>Cardhuさん

『ドラゴン・スクワッド』にも痺れる台詞はありましたが、さらにパワーアップしていましたね。
焦点はしぼりすぎなような気がしますが(笑)

ラストのナレーション、漢字だけで書くとそうなりますか。いいですね~。
micchii |  2009.08.01(土) 14:28 |  URL |  【コメント編集】

■いいですよね、これ!

前作『ドラゴン・スクワッド』ではまだジョン・ウーに及ばずという感じでしたが、今回は題材のわりに焦点をしぼった作りでかなりの健闘!

「古今多少事 都付笑談中」は今年の書初めに使いました、笑
Cardhu |  2009.07.31(金) 20:59 |  URL |  【コメント編集】

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