2009.04.23

『天使の眼、野獣の街』(ヤウ・ナイホイ)

天使の眼、野獣の街

香港版DVDではすでに観ていますが、東京から遅れること2ヶ月半ほど、こちらでもついに公開されたので、ようやく日本語字幕付で観れました。

ジョニー・トー映画の刑事モノでは、『デッドポイント~黒社会捜査線~』『暗戦 デッドエンド』『PTU』など代表作を観ればわかるように、主人公は、プロフェッショナルな男たちです。

より魅力的なのは、『エグザイル/絆』『ザ・ミッション/非情な掟』『ヒーロー・ネバー・ダイ』などの、いわゆる“裏社会”に生きる連中であるものの、ジョニー・トー映画の“表社会”の主人公も、ロマンティシズムとまではいかなくても、十分に“かっこよすぎる男”たちです。

そんな彼らへの我々観客の思いは、一言で言えば、“共感”ではなく“憧れ”。

そんなジョニー・トー映画の“男が憧れる男”を書き続けてきたヤウ・ナイホイが、初監督作で選んだ主人公は、新米の女性刑事。

天使の眼、野獣の街 ケイト・ツィ

百戦錬磨の強者たちが活躍する香港警察刑事情報課・監視班に、新たに配属されることになったホー(ケイト・ツィ)。

もちろん、彼女は十分に優秀です。
ボスであるウォン(サイモン・ヤム)を尾行する“テスト”では、見事に様々なことを記憶しています。
普通の人ではあれすら記憶できないでしょう。

それでも、完璧ではなく、見落としていることもいくつか。
“自分よりはずっと凄いけど、完璧ではなく、自分に近い存在”である主人公に共感を覚えるシーンです。

そして、その共感が決定的になるのが、チャン(レオン・カーファイ)が警官を襲ったシーン。

“プロフェッショナル”なら、ドクドクと大量に出血している警官には構いもせず、ターゲットであるチャンを追わなければいけません。

アンソニー・ウォンなら、涼しい顔でその場を離れるでしょう。
ラウ・チンワンなら、一瞬の迷いを見せ、なんなら的確な指示も出し、それでも現場は離れるでしょう。

しかし、彼女は、流れ出る血を止めるのに必死で、チャンを追うどころか、無線連絡にも出ません。

ですが、これが“普通の人の反応”であり、プロフェッショナルな男たちも、みんな最初はこうだったはずです。
それが、一つ、また一つと現場を踏み、百戦錬磨の刑事へと成長していくのです。

ウォンが言うように、一匹の子豚ちゃんが立派な猟犬に成長する物語。
新人の成長物語というのは何も珍しい話ではありませんが、ジョニー・トー組では今までになかったパターンです。

しかも、恋愛モノでもないのに、主人公は若い女の子です。これも、トーさんではありえません(笑)

演じるのも、映画初出演のケイト・ツィなわけですが、脇はばっちりと固めています。

『エレクション』に続いて2度目の頂上対決となる、サイモン・ヤムとレオン・カーファイ。

『エレクション』でのレオン・カーファイは常にわめき散らし、狂気を前面に出していましたが、大きい声を出せば出すほど、人間の小ささが浮き彫りになるものです。

それが一転、今回は狂気を内に秘め、その分炸裂した時の狂気はより凄まじい。ヤムヤムとの直接対決のシーンの緊迫感は尋常ではありません。

天使の眼、野獣の街 サイモン・ヤム レオン・カーファイ

片やサイモン・ヤム、大幅に体重を増やし、“ぱっと見どこにでもいる中年オヤジながら実は凄い切れ者”を悠々と好演。

彼の小話が効いていますね。話の内容自体よりも、聞いている部下たちの表情がいい。
たいした話じゃないですし、聞き終わった後は皆おいおいそんなオチかよという感じなんですが、聞いている間は、ほんとに楽しみにしているのが伝わってきます。
この話は、伏線としても後で効いてきますね。

天使の眼、野獣の街 ケイト・ツィ サイモン・ヤム

伏線といえば、この映画はオープニングが抜群に素晴らしい。
ウォンが乗客と交わす一言(本筋とは全く関係なし)を除けば、かなり長い間、台詞が全くありません。

でも、『スリ』の決闘シーンではありませんが、ほんとに素晴らしいシーンには、台詞なんかないんですよね。“目でわからせる”凄さ。

ホーはウォンを尾行しているわけですが、ホーの横にたまたまチャンが座ります。
そして、そんな3人を追う、天上の眼。この映画の“視点”も一発で観客にわからせます。

後でホーがチャンを尾行するシーンがありますが、ここでオープニングが効いてきて、ウォンとチャンが互角の実力を持っていることを、一切の説明台詞なしで描ききっています。

脚本家としてだけでなく、演出家としてもヤウ・ナイホイが一級品であることはこのシーンだけでも十分わかります。

チャンの手下にはトー組の脇役総出演ですが、中でも、犯人たちに最初に足がつく原因となるのが、我らが雪ちゃん、役名“ファットマン”!

足がついた原因が、遠めに見える客が美味しそうに食べているのを見て自分も食べたくなり、持ち場を離れてコンビニのチキンを買いに行ったこと(笑)

仲間内でちょっとした揉め事が起きた時も、皆が騒いでいる横で、一人鍋を死守(笑)
警察に捕まる瞬間も、その手にはしっかり食べ物が。食べ物への凄まじいまでの執念!

それでも、エレベーターのシーンではホーがちゃんとドアを閉めるのを確認するなど、ただのドジではありません。

天使の眼、野獣の街 ラム・シュー ケイト・ツィ

ラスト、街を歩くケイト・ツィの表情が、オープニングで街を歩く彼女のそれとはまったく違います。
これまた、彼女の成長を、無駄な説明など一切無しで、彼女の表情の変化だけで表しています。

トーさんは今回は製作で、監督は違う人だからなぁ、なんていう理由で観るのを躊躇っている方がもしいらっしゃったら、迷う必要は微塵もありません。

長年トーさんを支えてきた“トー組の頭脳”ですので、そこらへんの新人監督とは次元が違って当たり前かもしれませんが、初監督作品のレベルを遥かに超えた一級品。

必見。

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ジェネオン・ユニバーサル 2010-06-02

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[原題]跟蹤
2007/香港/90分
[監督]ヤウ・ナイホイ
[製作]ジョニー・トー/ツイ・シャオミン
[脚本]ヤウ・ナイホイ/オー・キンイー
[出演]サイモン・ヤム/レオン・カーファイ/ケイト・ツィ/マギー・シュー/ラム・シュー

→予告編 →他の映画の感想も読む

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*Comment

■>hi-chan

こちらこそお久しぶりです。結構長い間更新されてませんでしたので、どうされてるかなぁと思っていましたが、お元気そうで何よりです。

トーさんの映画でもそうですが、台詞に頼らず、映像で魅せてくれるところがほんとに素晴らしいですよね。
個人的には、ラム・シューの食べ物への執着ぶりがツボでした(笑)
micchii |  2009.05.17(日) 11:59 |  URL |  【コメント編集】

■遅くなりましたが・・・

コメント、TBありがとうございます。
お久しぶりです。
そして、この映画、自分のレビューを読んでも、細かいところまでは思い出せませんでしたが、micchiiさんのレビューを読んだら、だいぶ思い出しました。冒頭、なかなか台詞が出てこないのも、印象的でした。
やはりもう一度見たいですね。
DVDが出たら、さっそく見ようと思います。
hi-chan |  2009.05.16(土) 11:17 |  URL |  【コメント編集】

■>BCさん

初めまして、こちらこそコメント&TBありがとうございます。

カメラアングルは本当に印象的でしたよね。
だからこそ、映画祭の時のままタイトルは英題の『アイ・イン・ザ・スカイ』でいってほしかったです。

ケイト・ツィ、TVドラマには出ていたみたいですが、映画は初出演とのこと。
その新鮮さが効を奏してましたし、サイモン・ヤムやレオン・カーファイなどの百戦錬磨の役者と並んでも見劣りしませんでした。
感想にありましたが、彼女が主役なら、シリーズ化してほしいですね。
micchii |  2009.04.27(月) 13:24 |  URL |  【コメント編集】

■成長。

micchiiさん、はじめまして。
トラックバックありがとうござました。(*^-^*

“天上の眼”を表すようなカメラアングルが印象的な作品でした。

確かに、ラストのホー〔ケイト・ツィ〕の表情は成長が伝わってきましたね。
これから捜査官としてもっと実績を積んでいくであろう
ホーを見守っていきたい気持ちになりました。(*^-^*
BC |  2009.04.25(土) 16:18 |  URL |  【コメント編集】

■>tonboriさん

せっかく『エグザイル/絆』からいい流れができかかってますから、このまま継続してほしいですよね。
『鎗火』リメイクは、権利を獲得したプロデューサーが「もし、彼自身が海外向けにリメイクしたら、素晴らしいものになるでしょう」と言っているので、トーさんにやらせてくれたらいいですね。
micchii |  2009.04.25(土) 11:54 |  URL |  【コメント編集】

■素晴らしい

レビューですね。いやマジで!
やっとの公開でお待ちどうさまでしたという感じですが、
本当にこの勢いで残りの作品もガッと公開して欲しいものです。
噂では『鎗火』ハリウッドリメイク話も出ているとか(かなし心配ですが今の処は権利を保有云々のようです)。
tonbori |  2009.04.23(木) 22:04 |  URL |  【コメント編集】

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