2004.10.31

『バリー・リンドン』(スタンリー・キューブリック)

バリー・リンドン

今回の1本も、前回に続いて映像美に酔いしれる1本。
前回、『こうのとり、たちずさんで』の時に、他の追随を許さないと書いたばっかりなんですが、舌の根も乾かないうちに前言撤回(笑)

『フルメタル・ジャケット』に続いて2本目のスタンリー・キューブリック作品。

キューブリック作品は、ずいぶんと前にDVDボックスを買ったんですが、この作品だけがずっと未見でした。理由は185分という長さ。
しかしいざ観てみると、退屈することもなく、3時間を超す長さはまったく気になりませんでした。

舞台は18世紀、アイルランドの青年が英国上流社会の仲間入りを果たすも、長続きするはずもなく没落するという、一言で言えば“栄枯盛衰”の物語。
このストーリー部分も十分に魅力的ですが、はっきり言ってストーリーなど問題ではありません。

とにかくこの映画は目で楽しむ映画。
アカデミー賞では監督、脚本、俳優などがまず目立ちますが、それ以外のところで4部門受賞しているのがこの映画。
撮影、美術、衣装、編曲、どれも完璧。

中でも有名なのが、照明器具を否定した撮影。
野外では自然光、室内ではロウソクの灯だけ。
特にカードをやるシーンの室内の美しさには言葉を失います。

バリー・リンドン ロウソク

『2001年宇宙の旅』『時計仕掛けのオレンジ』のように未来を描いても凄いキューブリックですが、過去を描かせてもこの出来、やはりただ者ではありません。

緑の草原に映える赤を基調とした軍服の英国軍隊の行進、豪華絢爛な貴族の衣装や調度品、まるで18世紀にタイムスリップしたかのような、息を呑む映像美。
完璧主義者キューブリックの面目躍如といったところでしょう。

バリー・リンドン 軍服

美術に凝っている分いつもの毒が影を潜めているのかと思いきや、そこはさすがキューブリック、最後の最後にとんでもない一撃を用意していました。

この栄枯盛衰の物語を締めくくるエピローグの字幕。
「美しい者も醜い者も 今は同じ すべてあの世」
これにはやられました。

美術館で絵を観たり、劇場でオペラを観たような感覚にさせてくれる、3時間の映像叙事詩。
文句なしの、超一級の芸術品。



[原題]Barry Lyndon
1975/アメリカ/186分
[監督]スタンリー・キューブリック
[出演]ライアン・オニール/マリサ・ベレンソン/ハーディ・クリューガー

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2004.10.30

『こうのとり、たちずさんで』(テオ・アンゲロプロス)

こうのとり、たちずさんで

今回は、映像美に酔いしれる1本です。
名コンビヨルゴス・アルヴァニティス撮影による、テオ・アンゲロプロス監督渾身の一作。

ハリウッドのエンターテイメント作品とは対極にある彼の作品は、誰にでもお勧めできるものでもなく、難解で眠いとよく言われます。

自分がいつも書いている“何回リピート鑑賞に耐え得るか”という基準からしても、何回も観ようとは思いません。

今回の作品も、難民と国境を扱った重い話です。
マルチェロ・マストロヤンニにジャンヌ・モローと、出演者は豪華ですが。

ただ、アンゲロプロス作品の魅力はなんといっても、あの淀川長治氏をして、アンゲロプロスのことを「映画の感覚、映像美術の神」とまで言わしめた、他の追随を許さない圧倒的な映像の力。
今回も全編、詩的で崇高でため息の出るような映像の連続ですが、特筆すべきは3箇所。

まずは、有名な川を挟んでの結婚式。
川の一方の岸には新婦とその親族や仲間、そして対岸には新郎とその親族や仲間。新婦側の岸には神父さんもいます。
しかし、川の両岸は同じ国ではないのです。

元々は新婦一家も新郎側の国の人間ですが、難民としてこちら側に渡ってきています。
幼い頃は、共に無邪気に走り回ったことでしょう、それが、結婚したのに、手を触れ合うことすらできない二人。

こうのとり、たちずさんで 結婚式

まったく台詞なしで見せるこの10分はあるであろう川を隔てての結婚式のシーンは、言葉を失うほどの傑作。

二つめは、酒場で隣のテーブルに座った男女を延々と捉えるシーン。
これは観てのお楽しみということで。

最後は、これまた言葉を失ったラストシーン。
労働者たちが雨の中、黄色いレインコートをまとい、電柱にぶら下がり電線を張っています。
ただそれだけのシーンです。

それなのに、これは言葉で書いたところで実際に観ていただかないと伝わらないと思いますが、電柱にぶら下がる労働者たちを捉えたこの何でもないロングショットが、こうも迫ってくるものかと、頭や心に響くというより、こんな言葉ないでしょうが“肌に響く”、ほんとに鳥肌が立ちました。
このワンショットを観るためだけでも、この映画を観る価値はあると思います。

こうのとり、たちずさんで 電柱

タイトルの『こうのとり、たちずさんで』は、橋の上に書かれた国境線の上に片足で立つ姿から。
冒頭とラスト近くに出て来ますが、国境線の上に片足で立ち、持ち上げた足を線の向こう側に下ろそうとするシーンがあります。
しかし、下ろした瞬間、向こう側で銃を構えている警備兵に一撃のもとに殺されてしまうでしょう。

こうのとり、たちずさんで 国境線

人の手で引かれたたった1本の線、しかし、その線をまたぐということがどんなことなのか。
“国境”がいかに愚かなものかということを、目に見える形で訴えるこちらも素晴らしいシーン。

最初の方に書いたように、どなたにもお勧めとはいきませんが、他の追随を許さない映像の凄さだけは保証します。



[原題]To meteoro vima tou pelargou
1991/ギリシャ・フランス・スイス・イタリア/142分
[監督]テオ・アンゲロプロス
[撮影]ヨルゴス・アルヴァニティス/アンドレアス・シナノス
[出演]マルチェロ・マストロヤンニ/ジャンヌ・モロー/グレゴリー・カー

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2004.10.28

『毒薬と老嬢』(フランク・キャプラ)

毒薬と老嬢

今回の1本は、フランク・キャプラの傑作コメディ『毒薬と老嬢』です。

人気演劇評論家のモーティマーは、隣家の神父の娘エレーンとの結婚の報告に、叔母姉妹を訪ねる。
そこで彼が見つけたとんでもないものとは…。

コメディなので内容に触れても構わない気もしますが、知らない方がより楽しめると思いますので内容は省略。

舞台劇の映画化なので、場面はほとんど叔母姉妹の家ですが、脚本と演出の圧倒的面白さと、とんでもない登場人物の数々。

結婚を否定する本を出しておきながら自らが結婚に踏み切ったモーティマー。

ハネムーンに出かけるはずがそれどころではなくなったモーティマーにまったく相手にされないフィアンセ。

○○を見つけて動転してるモーティマーのことを、「今日のモーティマーはなんだか落ち着かないわね」「結婚するからでしょ」などとのんきに話す、一番の曲者の“毒薬と老嬢”な叔母姉妹。

毒薬と老嬢 ケイリー・グラント

自らが“ルーズベルト大統領”だと思いこみ家の地下室に“パナマ運河”を掘っているテディ。

しばらくぶりに家に帰ってきたフランケンシュタインにそっくりな兄ジョナサン。

兄と一緒に来た外科医アインシュタイン博士(扮するのは『M』『マルタの鷹』の怪優ピーター・ローレ!)。

毒薬と老嬢 ピーター・ローレ

他にも、なぜか脚本を書いていてモーティマーに構想を聞いてもらおうとする警官、養老院の院長などなど、一筋縄ではいかないキャラのオンパレード。

中でも傑作はテディで、突撃ラッパを鳴らし、階段を昇る時には必ず「突撃!」と言いながら駆け上がります。
これには毎回爆笑。このギャグだけでもこの映画を観る価値は十二分にあります。

舞台と同じ配役もあるなど、脇をがっちり芸達者で固め、一人あたふたするのが二枚目ケイリー・グラント。

圧倒的なスピード感で突き進んでいくこれでもかというドタバタ喜劇で、こういうのを観てしまうと並のコメディでは物足りなくなってしまうのがつらいところでもありますが、オープニングからラストまで極上の笑いを提供し続けてくれる2時間。



[原題]Arsenic and Old Lace
1944/アメリカ/118分
[監督]フランク・キャプラ
[出演]ケイリー・グラント/プリシラ・レイン/ジョセフィン・ハル/ジーン・アディア/レイモンド・マッセイ/ピーター・ローレ

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2004.10.25

『雨に唄えば』(ジーン・ケリー/スタンリー・ドーネン)

雨に唄えば

今回は当ブログ初のミュージカル映画です。
そしていきなり最高峰の1本、『雨に唄えば』です。

ミュージカル映画に説明はいりません。
オープニングからエンディングまでとにかくニコニコ御機嫌。

オープニングのジーン・ケリーとドナルド・オコナーとデビー・レイノルズの3人でのレインコートに雨靴に傘での“Singin' In The Rain”、ジーン・ケリーとドナルド・オコナーがバイオリンを弾きながら踊る“Fit As A Fiddle”、同じ二人が発声練習中に歌って踊る“Moses Supposes”、またまた3人での“Good Mornin'”等々、珠玉の歌と踊りのオンパレード。

中でも抜きん出て傑作なのが次の2曲。

まずは、あまりにも有名なジーン・ケリーの雨の街中での“Singin' In The Rain”。


歌い始めからずっと圧倒的ですが、水たまりでバシャバシャ水を跳ねながら踊るくだりはまさに圧巻。

自分は基本的に雨は好きではありませんが、土砂降りの雨の日に観ていたら、思わず傘も持たず家を飛び出してしまいそうなほど、このシーンはほんとに映画史上に残る傑作!

雨に唄えば 傘

ただ、もっと凄いと思わせるのが、映画の撮影場でのドナルド・オコナーの“Make 'Em Laugh”。


壁を使っての宙返り等々、天才としか言いようがありません。
至芸とはまさにこれ。

サイレントからトーキーに変わった時期の時代設定なため、その当時のドタバタぶりがわかるなど勉強になる一面もありますが、そんな難しいことはどうでもいい。

とにもかくにも歌と踊り。
現在のような凄い技術がない50年も昔、自らの声と体だけで魅せた至高の芸の数々。

50年も前の作品ですが、50年後に観てもこの感動、この先何年経とうがこのこの映画の魅力が失われることはないでしょう。





[原題]Singin' in the Rain
1952/アメリカ/102分
[監督]ジーン・ケリー/スタンリー・ドーネン
[製作]アーサー・フリード
[出演]ジーン・ケリー/ドナルド・オコナー/デビー・レイノルズ

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『雨に唄えば』のポスター集

 

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2004.10.23

『あの夏、いちばん静かな海。』(北野武)

あの夏、いちばん静かな海。

今回は、当ブログ初の邦画です。
恋愛映画では生涯不動のベストワン、もちろん異論反論はあるでしょうが、個人的にはこれを超える恋愛映画はありえません。

まずは、『あの夏、いちばん静かな海。』というタイトルが完璧。

主人公二人が言葉がしゃべれないという設定なので、脇役は別にしてセリフはまったくありません。
というわけで、ここでもいろいろ書くとあの素晴らしさが失われてしまいそうで、今回は手短に。

少しだけ余談を書いておくと、さすがは北野武監督、笑いもしっかり入れてあって、サーフィン大会の申込書に茂が書き込むシーン、小さいためよく観ないと気づきませんが、「身長:420cm 体重:2kg 血液型:E 保護者氏名:ゴルバチョフ 大会へ向けての意気込み:やる」には爆笑。

そして、全編極上のシーンのオンパレード。貴子がバスを降りて走ってくるシーン、窓に石を投げて貴子を呼ぶシーン、防波堤で自転車が落ちるシーン、貴子が一人海に向かってまっすぐ歩いていくシーン、そして文字通り号泣のラストシーン。

ここで挙げたシーンを見てもわかるように、ドラマチックなことは何一つ起きません。
それでも、ただ二人がサーフボードを持って一緒に歩くシーンなど、何でもないシーンがほんとにどれも極上。

あの夏、いちばん静かな海。

『八月のクリスマス』の時に、「ラブシーンなどいっさいなくても恋愛映画は成立し、そして、何気ない日常が実は何よりもかけがえがないという、ほんとに宝物のような作品。」と書きましたが、この映画はそのさらに上をいって、ラブシーンどころか言葉すらありません。しかし、言葉はまったく必要ありません。

一緒に歩き、走り、笑い、海を眺める、そこに言葉は、そして特別な何かは必要ありません。二人で一緒にいられることが何よりも大切、そのことを思い出させてくれ、そして感じさせてくれる珠玉の逸品。

凡百の恋愛映画が束になってもかなわない、永遠に残る傑作。

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1991/日本/101分
[監督]北野武
[音楽]久石譲
[出演]真木蔵人/大島弘子/河原さぶ/藤原稔三/寺島進

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